抄録
症例は52歳,男性.7年前に慢性腎不全に対し生体腎移植を施行し,4年前に両側の閉塞性動脈硬化症に対して左腋窩動脈から両側大腿動脈への人工血管バイパス術を施行されている.1カ月前より右鼠径部の膨隆を自覚し,疼痛も認めていた.立位や怒責にて右鼠径部にヘルニアの脱出を認め,鼠径ヘルニアと診断した.腹部CTでは右鼠径管腹側の皮下に人工血管を認めた.また,移植腎尿管が鼠径管背側の近傍を走行していることが推察された.手術は,鼠径管の足側で人工血管の下縁に皮膚切開をおいた.皮下脂肪ごと牽引し,人工血管の露出を防いだ.鼠径管と精索周囲は軽度の癒着を認めた.右内鼠径ヘルニア,ヘルニア分類II-1と診断し,Lichtenstein法を施行した.移植腎側の鼠径ヘルニアの治療においては,移植尿管の保護を考慮する必要があり,本法は有用な術式であると考えられる.