抄録
症例は72歳,女性.11カ月前に肝細胞癌に対し腹腔鏡下肝右葉切除術を施行し,外来経過観察中であった.嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した.腹部CTにて横行結腸が右胸腔に嵌頓し,上行結腸が著明に拡張していた.横隔膜ヘルニア嵌頓と診断した.まず,胸腔鏡で観察し腸管虚血の所見がないことを確認したのち,そのまま胸腔鏡補助下の横隔膜ヘルニア根治術を施行した.手術所見では約3cm大のヘルニア門より腸管の脱出を認めた.可及的に腸管を腹腔内に還納して嵌頓を解除し,ヘルニア門を縫縮した.肝切除後の合併症として横隔膜ヘルニアの報告は少ないが,念頭に置くべき疾患と考える.また,肝切除後の横隔膜ヘルニアに対する胸腔鏡アプローチの本邦での報告はないが,腸管虚血がなく腸切除の必要のない横隔膜ヘルニアに対して胸腔鏡下手術は有用であった.