2015 年 76 巻 7 号 p. 1644-1648
症例は53歳,女性.2年前からの嚥下時の違和感を自覚し来院した.上部消化管造影では,頸部から胸部上部食道に隆起性病変を認め,上部消化管内視鏡検査にて,門歯列より18-24cmに表面平滑な粘膜下腫瘍を認めた.造影CT検査にて造影効果を認めない嚢胞性腫瘍を認め,PET検査で異常集積を認めなかった.頸部アプローチにて摘出術を行った.摘出標本は64×22 mm大の多房性の嚢胞性腫瘤で,内容は粘稠な液体であった.組織学的所見より食道貯留嚢胞と診断された.食道嚢胞の発生頻度は剖検症例の検討から8,200分の1と報告されており,稀な疾患であるが,その大部分が先天性と考えられる気管支嚢胞や食道重複嚢胞である.後天性に生じたと考えられる食道貯留嚢胞の報告は本症例を含めて9例のみである.今回われわれは,非常に稀である食道貯留嚢胞の1例を経験したため若干の文献的考察を加え報告する.