2016 年 77 巻 12 号 p. 2886-2891
ミノサイクリン投与により甲状腺組織が黒褐色調を呈する病態は,黒色甲状腺と呼ばれ,非常にまれである.症例は52歳の女性で,皮膚疾患に対して約20年間のミノサイクリンの投与歴がある.乳癌術後の経過観察中に甲状腺腫瘍を指摘された.精査の結果,甲状腺乳頭癌と診断し,甲状腺全摘術および頸部リンパ節郭清術を予定した.手術中,黒褐色に変色した甲状腺を認めたが,術式の変更なく手術は終了し,術後経過は良好であった.病理組織学的所見では,甲状腺非腫瘍部組織の濾胞細胞の細胞質内にメラニン様物質の沈着が認められたことから黒色甲状腺と診断された.黒色甲状腺は,黒褐色を呈する以外に臨床的特徴に乏しく,手術や剖検時に偶然発見される場合がほとんどである.黒色甲状腺の存在さえ知っていれば特別な対処は必要ないが,まれな疾患であり,存在を知らなければ判断に迷う可能性もあると考えられたため,自験例に文献的考察を加えて報告する.