86歳,女性.主訴は労作時呼吸困難.上行大動脈から腹部大動脈に及ぶ広範囲重複大動脈瘤を認めた.広範囲重複大動脈瘤に対し,上行弓部大動脈置換術,腹部デブランチ,胸部ステントグラフト留置術(TEVAR)の三期分割の方針とした.弓部置換時に左室ベントによる心尖部穿孔をきたし,フェルト補強で修復術を施行した.退院後,心尖部から左前胸部にかけて膿瘍を形成し,抗菌薬治療を開始した.2回の排膿ドレナージ術を施行したが,膿瘍は消失しなかった.各種培養は陰性であり,無菌性膿瘍として保存的加療では治療に難渋したため,心尖部大網充填術と腹部デブランチを同時施行した.術後経過は良好で,残存瘤に対しTEVARを施行することが可能となり,広範囲重複大動脈瘤の治療を完結できた.