2020 年 81 巻 1 号 p. 96-100
症例は63歳,女性.右下腹部痛と腹壁瘢痕ヘルニア膨隆部の皮膚発赤,発熱が出現したため当院を受診した.下腹部正中に巨大な腹壁瘢痕ヘルニアを認め,その下端に皮膚発赤と圧痛を認めた.腹部造影CTでは,ヘルニア嚢内へ終末回腸から横行結腸にかけて脱出を認め,回盲部に接する下腹部腹壁に長径約7cmの膿瘍を認めた.局所麻酔下に膿瘍ドレナージを行い症状は改善したが,腸管皮膚瘻を呈しドレーンより少量の腸液排泄が持続した.二期的に回腸部分切除を伴う瘻孔切除,components separation法(以下CS法)による腹壁瘢痕ヘルニア修復術を行った.病理学的所見から,腹壁瘢痕ヘルニアに回腸憩室穿通による腹壁膿瘍が併発したことが考えられた.手術部位に感染を伴ったヘルニア修復術では,メッシュなどの人工物は術後感染の観点から使用できないため,CS法によるヘルニア修復術が有用である.