2020 年 81 巻 5 号 p. 920-924
症例は44歳,男性.5日前に歯科治療中に歯科器具(ピーソーリーマー)を誤飲し経過観察していたが,歯科医師に促され当院を受診した.自覚症状はなく,腹部X線検査で右下腹部に4cm長の鋭利な異物を認めた.腹部単純CTで上行結腸起始部に異物を認めたが,腸管の穿孔や膿瘍形成は認めなかった.2日後の腹部X線検査を施行したところ前回と異物の移動がないことから,腸管穿孔が生じる可能性を考慮して手術の方針とした.手術は腹腔鏡手術で行った.腹腔内には膿瘍や腹水はなく,盲腸に突起状の隆起を認め,術中にX線透視を併用し異物部位を確認した.異物先端に接する腸管を鏡視下手術用剪刀で1cm切開し異物を体外へ摘出し,切開部位は腹腔内結紮で仮閉鎖した後に自動縫合機で閉鎖した.術後経過は良好で,術後5日目に退院した.今回,歯科治療中の誤飲による上行結腸内異物を腹腔鏡下手術で回収しえた1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.