2021 年 82 巻 10 号 p. 1799-1804
舌骨尾側に発生した乳頭癌の1例を経験した.症例は49歳,女性.前頸部舌骨下の腫脹と疼痛を主訴に当科を受診した.超音波検査で甲状軟骨左側に低エコー腫瘤を認めた.また,甲状腺左葉に微小石灰化を伴った低エコー腫瘤を認めた.ともに穿刺吸引細胞診検査で悪性,乳頭癌の診断であった.以上より,甲状腺左葉乳頭癌,喉頭前リンパ節転移,もしくは甲状舌管嚢胞癌ないし錐体葉乳頭癌の術前診断にて,甲状腺全摘術およびD1郭清術,喉頭前腫瘤切除を施行した.喉頭前腫瘤は錐体葉と連続していた.病理組織学的には甲状舌管嚢胞の構造を示唆する所見はなく,錐体葉乳頭癌の診断であった.明らかな術後合併症および再発は現在認めていない.
本症例のように,甲状舌管嚢胞癌と甲状腺錐体葉癌は診断が困難なことがある.その場合は術式や追加治療を慎重に決定する必要がある.本症例はさらに,甲状腺左葉にも乳頭癌を認めた興味深い症例であった.