2023 年 84 巻 10 号 p. 1684-1688
症例は82歳,男性.体動困難により前医で右鼠径ヘルニア嵌頓と診断され,当院に転院となった.用手還納不可の巨大鼠径ヘルニアを認め,CTで壊死を否定できず緊急手術となった.鼠径法で手術を開始したが,嵌頓小腸はやや緊満し一部壊死していたため,下腹部正中切開を追加した.回腸末端から約10cmの回腸から約20cm,回腸末端から約70cmの回腸から約80cmの2箇所で壊死腸管を認め,各々切除吻合した.術後経過は良好で,第23病日に転院となった.
ヘルニア内に複数の腸管ループが脱出し,腹腔内の腸管ループが強く絞扼されるものをMaydl's herniaと称し,非常に稀な病態であるが,巨大鼠径ヘルニア症例においては起こりうる病態であり,嵌頓腸管だけでなくloop間の腹腔内腸管も壊死の可能性があり,手術を念頭に置いて慎重に判断する必要があると考えた.