日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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綜説
  • 木村 直行
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1553-1564
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    臓器灌流障害(malperfusion)は,急性大動脈解離における最も重要な病態の一つであり,解離した内膜が分枝内に入り込み分枝血流が障害されるstatic obstruction,偽腔側から内膜フラップが圧迫され真腔血流が低下するdynamic obstruction,およびその両者の混在であるmixed type obstructionにより発症する.解剖学的には,malperfusion症例は,弓部大動脈に内膜亀裂,いわゆるentryが位置する頻度が高く,偽腔が開存し遠位側大動脈に解離が進展していることが多い.

    臓器灌流障害の中でも,冠動脈虚血・脳虚血・腸管虚血はいずれも重篤であるが,大動脈修復手術より先に虚血臓器の灌流を優先させる治療戦略が近年注目されている.虚血臓器の早期再灌流のためには,aortic teamによる診療アプローチが重要であり,治療成績向上の鍵となる.

臨床経験
  • 岸本 昌浩
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1565-1569
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    局所進行乳癌はしばしば潰瘍を形成し,出血や浸出液,悪臭,痛み等により,著しく生活の質を低下させる.しかしながら,これらの症状に同時に対応でき,かつ患者が安全に自己処置し得る外用薬の報告はない.そこで,以前よりこれらの条件を満たす自製混合軟膏(Kishimoto軟膏;K軟膏)を作成し使用してきた.2010年1月から2020年1月にK軟膏を使用した10例につき,その効果を後方視的に検討した.初診時に9例に軽度出血,全例に浸出液,8例に悪臭,7例に痛み症状があった.K軟膏を潰瘍部が充分に被覆されるように塗布した後,ガーゼで被覆した.いずれの症状も改善あるいは消失した.軟膏接触部の軽度発赤以外に副作用はなかった.

    乳癌癌性潰瘍における諸症状にK軟膏は有効である.重篤な副作用はなく,安全に使用し得る.また,安価に作成可能である.

    広範囲乳癌癌性潰瘍や諸症状のコントロールに難渋する場合には,K軟膏の使用が一つの選択肢となり得る.

症例
  • 竹原 侑里, 松田 直子, 林 直輝, 竹井 淳子, 鹿股 直樹, 角田 博子, 山内 英子, 吉田 敦
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1570-1575
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は33歳,ラテンアメリカ系の女性.母の従妹に乳癌家族歴があった.1カ月前からの右乳房腫瘤を主訴に,前医を受診した.右乳頭直下に8cm大の腫瘤性病変を指摘され,針生検を施行された.生検の結果,悪性の所見はなかったが,巨大腫瘤のため手術目的に当科へ紹介となった.術前画像診断では,内部に多数の嚢胞性変化を伴う75mm大の腫瘤性病変がみられた.当院での生検組織の見直しでductal carcinoma in situを完全に否定するのが困難な所見がみられたものの,画像上は明らかな悪性所見はなく,右乳腺腫瘤摘出術が施行された.術後病理にて,若年性乳頭腫症(juvenile papillomatosis)の診断に至った.若年性乳頭腫症は稀な疾患であり,アジア人での報告は少ないとされる.治療は完全切除であり,悪性腫瘍の合併がなければ追加治療は不要である.しかし,乳癌家族歴などがある場合は乳癌発症のリスク因子となる可能性が示されており,術後も定期的なフォローアップが必要となる.

  • 清水 由実, 塚田 弘子, 名取 恵子, 野口 英一郎, 明石 定子
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1576-1580
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    本邦の腎移植向上により腎移植後患者の生存率は改善する一方で,腎移植後に悪性新生物を発症する頻度は増えている.腎センターを有する当院の特性上,多くの腎移植後患者が通院しており,腎移植後の乳癌症例を経験することも多い.今回,生体腎移植後に発症した乳癌に対して一次再建を行った2例を報告する.症例1は46歳の女性.両側乳癌に対して両側乳房全摘術,エキスパンダーによる一次二期再建を行った.症例2は42歳の女性.右乳癌に対して右乳頭乳輪温存乳房全切除術,広背筋皮弁による一次一期再建を行った.いずれも良好な経過であり,当院での周術期管理や文献的考察を交えて報告する.

  • 吉田 進, 木村 正樹, 岩﨑 喜実, 上田 和光, 䑓 勇一
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1581-1586
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳,女性.横行結腸癌術後1年のCT上,左肺S1+2末梢に1cmの結節影認め肺転移が疑われ,他に再発なく当科へ紹介された.また,他科で経過観察されていた縦隔内甲状腺腫も増大傾向で気管偏位を伴い,肺転移手術時の麻酔管理と術後呼吸管理上も摘出の必要性を認め,同時手術を施行した.手術は頸部襟状切開に胸骨縦切開を追加して開始.まず,甲状腺腫瘍を縦隔内尾側部から鈍的・鋭的に剥離し縦隔外に挙上,さらに剥離を進め,甲状腺左葉と峡部で切離,右葉は下極で切離し摘出した.その後,気管支ブロッカーで右片肺換気とし,左肺S1+2の腫瘍に対し上葉部分切除術を施行した.術後一時的に嗄声を認めたが軽快し,退院した.病理診断は腺腫様甲状腺腫および横行結腸癌肺転移であった.自覚症状がない縦隔内甲状腺腫も気管偏位をきたす場合は手術適応とされるが,肺切除術を予定する際には麻酔管理や呼吸管理においても摘出が必要な場合がある.

  • 中川 将視, 森 直樹, 日野 東洋, 最所 公平, 藤崎 正寛, 藤田 文彦
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1587-1592
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は74歳,男性.2019年9月に胸部中部食道癌に対し右開胸開腹食道亜全摘,3領域リンパ節郭清,後縦隔胃管再建術を施行した.術後1年目に急性腹症で近医に搬送され,CTで右胸腔内への小腸脱出を認め,食道裂孔ヘルニアの診断で当院へ紹介となった.受診時には腹部症状は消失し,保存的加療を行うも,入院後12日目に腹痛が再燃した.CTで食道裂孔ヘルニア嵌頓を疑い,緊急手術を施行した.右胸腔に脱出した小腸は壊死の所見は認めなかった.小腸を還納し,裂孔閉鎖を行った.術後に創哆開を発症し再縫合を行ったが,その後の経過は良好で軽快退院となった.本症例の発症誘因は,右胸腔内に胃管が脱出したことによる裂孔の間隙に腸管が迷入したことが考えられた.術後の食道裂孔部のヘルニアは自然寛解する可能性は低く,手術による整復と裂孔縫縮が必要であると考える.

  • 川上 晃樹, 佐藤 仁俊, 森脇 義弘, 大谷 順
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1593-1596
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,女性.胃癌に対して開腹幽門側胃切除術(D2郭清,Billroth I法再建)を行い,合併症無く術後15日目に退院した.pT2(MP)N3bM0,pStage III Bの診断で,TS-1単剤で術後補助化学療法を行っていた.術後65日目に突然の吐下血を発症し,造影CTを施行したところ,胃十二指腸動脈に生じた仮性動脈瘤からの出血を認めたため,動脈塞栓術を施行した.胃切除術後の仮性動脈瘤破裂による出血は稀であり,多くは術後1カ月以内で縫合不全や膵液漏を契機に二次的に発症するとされている.一方,超音波凝固切開装置などのデバイスで生じた熱により動脈損傷をきたし,仮性動脈瘤が形成されたという報告例も散見される.胃切除術の合併症として仮性動脈瘤破裂も念頭に置いた周術期管理および適切なデバイス操作が重要と考えられた.

  • 矢野 智之, 川瀬 寛, 本谷 康二
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1597-1603
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は64歳,女性.2カ月前からふらつきがあり,嘔吐・吐血で救急搬送され入院となった.入院時の胃内視鏡検査で,胃体部に4型の胃癌および潰瘍底に露出する動脈瘤を認めた.腹部造影CTでは胃内に露出した7.5mm大の右胃大網動脈瘤を認め,同部位周囲の胃壁の肥厚ならびにリンパ節転移が疑われた.入院3日後に大量の吐血後にショック状態となり,緊急手術を施行した.開腹時,腹腔内に出血はなく,全て消化管内に出血していた.右胃大網動脈瘤の破裂と診断し,流入ならびに流出部血管を結紮後に幽門側胃切除術を施行した.摘出標本では胃癌の潰瘍底に,破裂したと考えられる動脈瘤の血管壁を認めた.術後第15病日に退院し,化学療法を施行したが,術後11カ月で原病死した.右胃大網動脈瘤破裂を伴った胃癌の1例を経験した.胃内に破裂する症例は極めて稀であるが,ひとたび破裂すると容易にショック状態になることがあるため,迅速な診断と治療を念頭に置く必要がある.

  • 山田 純, 北村 智恵子, 加藤 大貴
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1604-1610
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は神経線維腫症1型(NF1)患者の40歳,男性.上腹部違和感に対する上部消化管内視鏡検査より胃体上部の内腔発育型,30mm大のGISTと診断された.胸腹部CTでは他病変は認めなかったが,NF1関連GISTは小腸に好発し複数の臓器に多発する傾向があるため,術式としては胃GISTの切除のみならず他病変の有無の確認が重要と考えた.手術は腹腔内を鏡視下に詳細に観察し他病変のないことを確認し,胃GISTに対しては腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)による胃局所切除を行った.術後経過は良好で,4年経過した現段階で再発は認めていない.NF1関連GISTが胃に単発で発生することは非常に稀であるため,NF1患者に胃GISTが発見された際は他病変の存在も念頭に置くべきで,術前画像検索で明らかでなかった場合も術中検索を詳細に行うべきと思われる.その手段としては鏡視下観察が低侵襲性の面でも有用と考えられる.

  • 小林 照忠, 佐藤 龍一郎, 金子 直征, 佐藤 純
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1611-1617
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は34歳,女性.心窩部痛を主訴に受診して3型胃癌と診断され,術前検査で両側卵巣に嚢胞性病変を認め,良性腫瘍と診断した.審査腹腔鏡で腹膜転移なく,右卵巣病変を腹腔鏡下に核出後,開腹して幽門側胃切除術を行った.病理組織検査ではpor,T4a,Ly1a,V1a,N0,Stage II Bで,右卵巣病変は成熟型嚢胞性奇形腫であった.術後補助化学療法終了後に右卵巣が腫大して胃癌転移または奇形腫悪性転化と考え,胃切除から14カ月後に両側付属器切除術を行った.病理組織検査で胃癌卵巣転移,いわゆるKrukenberg腫瘍と診断された.胃切除後5年,卵巣切除後4年間再再発なく生存中である.リンパ節転移や腹膜転移を伴わない胃癌でも卵巣へ転移する可能性があり,卵巣腫大を認めた場合は転移を念頭に置いて切除を検討すべきと考える.また,元々卵巣病変を有する胃癌の経過観察中には,卵巣病変の評価にMRIが有用な可能性がある.

  • 若尾 聖, 宇治 誠人, 杢野 泰司, 松原 秀雄, 三浦 泰智, 大谷 知之
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1618-1623
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例1:70歳の女性.貧血による息切れを主訴に受診し,精査の結果,胃前庭部に2型進行癌を認めた.CTで,所属リンパ節だけでなく全身のリンパ節に腫大を認めた.胃癌の多発リンパ節転移も疑われたが,結腸傍リンパ節の術中迅速病理診断を行ったところ,サルコイドーシスの診断となり,開腹幽門側胃切除術を施行した.最終病理診断はpT2N0cM0 Stage IBで,リンパ節は全てサルコイドーシスであった.症例2:75歳の男性.検診で貧血を指摘され,精査の結果,胃前庭部に0-IIa型の早期癌を認めた.胸腹部CTで胃の所属リンパ節に加えて,縦隔リンパ節にも腫大を認めた.術前の全身MRIで胃癌の転移は否定的と判断し,腹腔鏡下幽門側胃切除術(D2)を施行した.最終病理診断はpT1bN0cM0 Stage IAで,所属リンパ節にサルコイドーシスを認めた.胃癌に所属リンパ節以外の多発リンパ節腫脹を認めた場合は,サルコイドーシスなどの全身性疾患の併存も念頭に入れ,治療方針を慎重に決める必要がある.

  • 根本 幸一, 前澤 幸男, 中守 咲子, 岩崎 謙一, 土田 知史, 長 晴彦
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1624-1630
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は51歳の女性で,胃癌に対して腹腔鏡下胃全摘術,D2郭清,Roux-en-Y再建術を施行した(pT3N0M0 pStage IIA).経過観察中の術後13カ月目に,突然の腹痛と嘔吐を主訴に救急外来を受診した.腹部単純X線検査では,Y脚吻合部近傍と挙上空腸に小腸ガスと腸管拡張を認めた.腹部CTでは,Y脚吻合部の挙上空腸にtarget signを認め,その口側腸管の拡張を認めた.減圧目的に挿入した経鼻胃管からは暗赤色の排液を認めた.腸重積による絞扼性腸閉塞の診断で,同日緊急手術を施行した.腹腔内所見では,再発所見を認めず,Y脚吻合部の肛門側小腸が逆行性に挙上空腸に重積し,一部,Y脚側にも重積していた.Hutchinson手技での整復が困難であったため,Y脚吻合部を含めた小腸部分切除を行い,再度Y脚吻合を作成した.胃全摘術後の腸重積は稀であり,今回われわれは,腹腔鏡下胃全摘術後のY脚吻合部に逆行性腸重積を認めた1例を経験したので,若干の文献的考察を含め報告する.

  • 山下 麗香, 川村 雅彦, 堤 謙二, 川村 武, 矢野 文章, 衛藤 謙
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1631-1637
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,女性.背部痛と嘔吐を主訴に前医を受診し,腸閉塞の疑いで当院を紹介受診した.腹部X線写真では立位で鏡面形成を認め,腸閉塞の所見であった.腹部超音波検査ではmultiple concentric ring signを,腹部造影CTでは同心円状の層構造を呈する腸管を認め,腸重積による腸閉塞を疑い同日緊急手術を施行した.腹腔内は小腸に腸重積を認め,口側腸管は拡張していた.用手的整復は困難であり,小腸部分切除術を施行した.肉眼所見では腸間膜の癒着と被包化された腸管膜間に膿汁露出を認めた.病理組織学的所見は,腸管癒着部の腸間膜内にアニサキス様の虫体および壊死物と肉芽腫を,周囲の腸管壁は粘膜固有層の浮腫が目立ち,慢性型アニサキス症の所見であった.小腸アニサキス症は稀な疾患だが,われわれはアニサキス虫体による膿瘍形成が原因で小腸重積をきたした1例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 藤林 勢世, 田中 善宏, 佐藤 悠太, 浅井 竜一, 松橋 延壽
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1638-1645
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は22歳の男性で,腹部膨満,腹痛を主訴に前医を受診した.造影CTでは腫瘍内出血・膿瘍形成を伴い急激な増大傾向を示す腸間膜由来の腹腔内巨大腫瘍を認め,当院へ紹介となった.CRPは著明に上昇し,凝固異常や高度栄養障害を伴い全身状態不良であった.精査の結果,腫瘍は回盲部腸間膜由来であると考えられ,回盲部合併切除で切除可能と判断し,準緊急での開腹手術を施行した.回盲部腸間膜に30cm大の腫瘍を認め,盲腸および虫垂への浸潤がみられた.予定通り回盲部切除術を施行し腫瘍を摘出した.病理組織学的所見からデスモイド型線維腫症と診断した.今回,われわれは腫瘍内膿瘍形成に伴う急速な増大傾向を示す巨大腸間膜デスモイド腫瘍の1切除例を経験した.巨大腸間膜デスモイド腫瘍は膿瘍形成を合併し全身状態不良となることがあり,外科的切除可能な時期を逸することなく,十分な画像評価の上,安全に手術を施行することが重要である.

  • 村上 幹樹, 山浦 忠能, 河瀬 信, 今田 絢子, 中村 友哉, 黒田 暢一
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1646-1652
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    近年,本邦でも腹腔鏡下結腸切除後の体腔内吻合の導入が進んでいるが,新しい手技には潜在的な盲点があることも多い.症例は,当科で上行結腸癌に対し腹腔鏡下右半結腸切除術,体腔内吻合を行った67歳の男性.初回手術時,吻合部の腸間膜間隙は体外吻合に準じて閉鎖しなかった.術後15日目に腹痛が出現し,腹部CTで吻合部の腸間膜間隙における内ヘルニアと診断し,緊急で腹腔鏡下内ヘルニア解除と腸間膜間隙の大網被覆を行った.再手術後17カ月を経て再発はない.開腹手術よりも腹腔鏡手術は癒着が少ないとされ,腹腔鏡下胃全摘術・Roux-en-Y法再建後のPetersen間隙は非吸収糸での閉鎖が推奨されている.当科は結腸吻合部の腸間膜間隙も同様に閉鎖するようにし,以降内ヘルニアの発生はない.内ヘルニアは再手術を要する重篤な合併症であり,体腔内吻合後の合併症として注意すべきもの考える.本症例に文献的考察を加え報告する.

  • 南浦 翔子, 寺岡 均, 庄司 太一, 木下 春人, 中川 泰生, 大平 雅一
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1653-1658
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は64歳,女性.全身倦怠感を主訴に近医を受診.血液検査で肝機能障害を指摘され,精査加療目的で当院へ紹介となった.来院時原因精査のため行った腹部超音波検査でうっ血肝像を呈していたため,心臓超音波検査を施行したところ,全周性に大量の心囊液および左室駆出率の低下を認め,心タンポナーデおよび右心不全と診断し緊急入院となった.入院時に施行した心囊穿刺において回収した心囊液の細胞診で異型細胞を認め,癌性心タンポナーデと診断した.胸腹部造影CTでは横行結腸の壁肥厚,傍大動脈リンパ節および縦隔リンパ節の腫大,さらに左副腎の腫大も認めた.胸腹部MRIにおいては胸椎Th7および腰椎L5に骨転移を認めた.下部消化管内視鏡検査にて横行結腸に全周性の2型進行癌を認め,以上より横行結腸癌cStage IVbと診断した.自験例のように,心タンポナーデを契機に発見された横行結腸癌の症例は極めて稀である.

  • 佐々木 茂真, 田地野 将太, 小林 波留花, 蝶野 喜彦, 黒澤 弘二, 渡部 通章
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1659-1662
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は73歳の男性で,主訴は下血.前立腺癌の疑いで超音波ガイド下経直腸的前立腺生検を施行した.生検の6時間後に多量の下血を認め,圧迫でも止血困難なため直腸壁出血の疑いで,同日当科へ依頼となった.動脈相CTにて精嚢のレベルで直腸内腔に造影剤の漏出を認めた.腸管壁内末梢分枝血管損傷による医原性出血と診断した.同日緊急血管内治療を施行した.上直腸動脈の選択的造影では,上直腸動脈の末梢枝より直腸内へ造影剤の漏出を認めた.ゼラチンスポンジ(ゼルフォーム®)による塞栓を施行後,コイル塞栓(Stryker Target XL(360°)®:ϕ2mm×6cm)を行った.その後,選択造影で造影剤の漏出の消失を確認し,手術を終了した.術後経過は良好で,術後11日目に退院となった.術前に明らかな損傷血管を同定できる場合は,症例を選択することで経カテーテル的動脈塞栓術が有効であることが示唆された.

  • 加藤 航司, 平田 勇一郎, 小野 武, 永田 仁, 比嘉 聡
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1663-1666
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例1は74歳の女性で,大腸全摘術後の回腸人工肛門への腹膜播種浸潤により腸閉塞をきたした.自己拡張型金属ステント(self-expandable metallic stent:以下,SEMS)を留置し,7日後に軽快退院した.症例2は71歳の男性で,Hartmann術後の結腸人工肛門への腹膜播種浸潤により腸閉塞をきたした.SEMSを留置し,11日後に軽快退院した.人工肛門の癌性狭窄に対するSEMS留置は,低侵襲に施行可能で,best supportive care(以下,BSC)を必要とする患者のQOL改善に非常に効果的であり,有用な選択肢と考えられた.

  • 川口 雄太, 前川 恭一郎, 橋本 敏章, 北川 瑞希, 力武 美保子, 岩田 亨
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1667-1672
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    胆石イレウスは胆石症の稀な合併症の一つであり,イレウス解除は必要だが,内胆汁瘻の閉鎖に関して確立した見解はない.症例は78歳の女性.嘔吐を主訴に当院を受診し,CTで30mm大の胆石の小腸への嵌頓と胆嚢十二指腸瘻を認めた.胆石イレウスの診断で緊急小腸切石術を行い,胆嚢十二指腸瘻に関しては自然閉鎖を期待し保存的加療の方針とした.術後7カ月の上部消化管内視鏡で瘻孔の残存を認めたため,腹腔鏡下に自動縫合器を用いた瘻孔切除術と胆嚢摘出術を行った.内胆汁瘻に関しては,逆行性胆管炎や胆道腫瘍のリスクから瘻孔切除術が推奨される.しかし,瘻孔の自然閉鎖例が多いことや,イレウス解除術と同時に一期的に瘻孔切除術を行う場合,死亡率が有意に上昇することから,二期的な手術が推奨される.また,瘻孔の大きさや炎症の程度によっては低侵襲な腹腔鏡下手術も考慮され,本症例も二期的な腹腔鏡下胆嚢十二指腸瘻切除術が有用であった.

  • 周東 宏晃, 菅又 嘉剛, 多賀谷 信美, 奥山 隆, 吉富 秀幸
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1673-1678
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    今回,われわれは胆泥を伴う胆嚢炎で摘出した胆嚢頸部に嚢胞が認められた非常に稀な症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.症例は78歳の男性で,受診当日の朝食摂取後に軽度の上腹部痛を自覚し,当科受診となった.来院時血液検査で総ビリルビン1.5mg/dL,AST 63U/L,ALT 47U/L,CRP 1.3mg/dLと,肝胆道系酵素の上昇とCRP上昇を認めた.また,腹部超音波検査で胆嚢壁の肥厚,胆嚢内に胆泥を認め,頸部にRokitansky-Aschoff sinusの拡張と思われるcystic areaを認めた.CTでは,胆嚢は軽度の壁肥厚と腫大を認め,胆泥を伴う急性胆嚢炎と胆嚢腺筋腫症の診断にて,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.切除胆嚢を開放すると,頸部に10mm弱の粘液性の内容物を含む嚢胞を認めた.病理組織検査では,嚢胞は嵌入した腺管が拡張したもので,悪性所見は認めなかった.胆嚢嚢胞は稀であり,本邦での報告例は自験例を含め17例のみであるが,癌の発生を考慮すると嚢胞の拡大に注意しながら経過観察し,手術の時期を逃さないことが重要である.

  • 奥田 賢司, 木村 賢哉, 明石 久美子, 亀岡 伸樹
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1679-1683
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は74歳の男性で,26年前に右尿路結石症に対してESWLを施行されていた.今回は健診で肝機能異常を指摘され,精査目的に当院を受診した.腹部CTで盲腸壁に隣接する腫瘤性病変を認め,また回結腸動静脈根部周囲にリンパ節腫大を認めた.大腸内視鏡検査では盲腸粘膜に異常は認めなかった.確定診断および治療目的に領域リンパ節郭清を伴う腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.術中所見では精巣動静脈への浸潤が疑われたため,合併切除した.回盲部を切除し機能的端々吻合を行い手術を終了した.経過良好で,術後8日目に退院した.肉眼所見は25×20mm大の嚢胞構造で,内部に暗赤色の血液が充満した腫瘤であった.病理学的所見では精巣動脈壁の3層構造の破綻を認め,仮性動脈瘤と診断された.リンパ節転移が疑われた病変は神経鞘腫の診断であった.ESWLが原因と考えられた仮性動脈瘤の報告は少なく,考察を加えて報告する.

  • 伊藤 諒, 伊藤 康博, 大平 正典, 鳥海 史樹, 遠藤 髙志, 原田 裕久
    2023 年 84 巻 10 号 p. 1684-1688
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/30
    ジャーナル フリー

    症例は82歳,男性.体動困難により前医で右鼠径ヘルニア嵌頓と診断され,当院に転院となった.用手還納不可の巨大鼠径ヘルニアを認め,CTで壊死を否定できず緊急手術となった.鼠径法で手術を開始したが,嵌頓小腸はやや緊満し一部壊死していたため,下腹部正中切開を追加した.回腸末端から約10cmの回腸から約20cm,回腸末端から約70cmの回腸から約80cmの2箇所で壊死腸管を認め,各々切除吻合した.術後経過は良好で,第23病日に転院となった.

    ヘルニア内に複数の腸管ループが脱出し,腹腔内の腸管ループが強く絞扼されるものをMaydl's herniaと称し,非常に稀な病態であるが,巨大鼠径ヘルニア症例においては起こりうる病態であり,嵌頓腸管だけでなくloop間の腹腔内腸管も壊死の可能性があり,手術を念頭に置いて慎重に判断する必要があると考えた.

国内外科研修報告
編集後記
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