2025 年 86 巻 1 号 p. 110-114
症例は74歳,女性.右鼠径部の膨隆を主訴に受診した.CTで脂肪の脱出した右鼠径ヘルニアと診断し,待機的に手術加療の方針となった.腹腔鏡による観察では腹膜の陥凹は認めなかったが,腹膜を切開し,腹膜前腔を剥離すると,内鼠径輪より鼠径管内に脱出した腫瘤を認めた.腫瘤周囲を剥離すると,円靱帯由来の腫瘍が示唆され,腹腔鏡下に摘出した.腫瘤摘出後の内鼠径輪は2cm程度の開大を認め,メッシュを用いて修復した.腫瘤は病理学的検査で脂肪腫と診断された.術後約1年となるが,再発は認めていない.欧米では腹膜陥凹を認めず,精索・円靱帯脂肪腫や腹膜前脂肪組織の脱出により鼠径ヘルニア様の症状を呈するsacless sliding fatty inguinal hernia(SSFIH)の概念が提唱されているが,本邦では十分に認知されていない.円靱帯脂肪腫によるSSFIHは特に稀であり,文献的考察を加えて報告する.