2006 年 21 巻 1 号 p. 116
本論文は, 遠隔教育の特長を活かしてデザインされた三つの遠隔教育実践を対象として, 授業デザイン, システムの両面から両者の相互関係を考慮しながら, 受講生の満足度を高めている要因や授業目標の達成度について評価を行い, 受講生に共有感をもたせることの効果を検証することで, 遠隔教育実践の有効性および実践をデザインする際の知見を明らかにすることを目指したものである.非同期型ゼミ(KKJ実践)において, 合宿などの共通体験を授業デザインに取り入れることで, 集団間コミュニケーションが徐々に増加し, 両集団の共有感が高まっていく過程の中で自己探索の手がかりを得ることができたことなどを示した.また, 同期型遠隔ゼミ(KNV実践)においては, 対等に議論できるようなテーマを選択することによって, 主体的な学びを行ううえで相手が「他者」として有効に働くことなどを示した.同期型遠隔講義(TIDE Project)においては, 画質や対話性の向上およびシステムの安定性が両集団の共有感を高め, 講義の満足度に影響を与えていること, 満足度への影響を与える要因が徐々にシステムから授業内容へと比重が移ること, 講師は両大学の受講生の状態を把握することによって授業を構成しており, システム設計においてこの点を考慮することが重要であることなどを明らかにした.三つの遠隔教育実践の評価研究の結果から, 遠隔教育実践をデザインするうえで, 集団内の結束力を強くする, 両集団の対等な関係をつくる, 対話性を重視してシステムを構成する, といった点を考慮すべきであることを明らかにした.