全日本鍼灸学会雑誌
Online ISSN : 1882-661X
Print ISSN : 0285-9955
ISSN-L : 0285-9955
報告
大学生の顎関節症被験者に対する鍼治療の試み
顎機能に関するアンケート調査と鍼治療の効果に関する臨床試験
浅井 紗世伊藤 和憲浅井 福太郎今井 賢治北小路 博司
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 60 巻 4 号 p. 728-736

詳細
抄録
【目的】若者に顎関節症が多いとされているが、 その実体は不明である。 そこで、 大学生を対象に顎機能に関するアンケート調査を行うとともに、 その中で顎機能に障害が見られたものに対して偽鍼 (sham鍼) を用いた鍼治療の臨床試験を試みた。
【方法】明治国際医療大学の学生に顎機能に関するアンケートを回答選択式で行い、 その中で顎機能に障害をもつ学生16名(21.5±1.7歳;平均±S.D.) を対象に鍼治療を行った。 患者をコンピューターにより無作為に鍼治療群 (鍼群) とsham鍼治療群 (sham群) の2群に群分けし、 それぞれ週1回の間隔で計5回の施術を行った。 鍼治療の効果判定には、 (1)主観的な苦痛の評価 (Visual Analogue Scale;VAS)、 (2)開口距離 (mm)、 (3)咬合力計にて健側および患側の最大咬合力(kN)をそれぞれ用いた。 各評価は治療開始前に行うこととし、 治療の効果は1週間後の治療効果として評価するものとした。
【結果】顎機能に何らかの異常をもつ大学生は全体の50%以上におよび、 最も多い障害は関節雑音であった。 一方、 鍼治療の効果に関しては施術前の鍼群67.1±19.1mm、 sham群65.6±15.2mmであった痛みが、 5回の施術により、 鍼群9.3±7.8mm、 sham群40.5±16.7mmと両群とも軽減傾向を示したが、 その効果は鍼群の方が高かった (p=0.0152, Mann-Whitney)。 一方、 開口距離と最大咬合力に関しては両群とも大きな変化はみられなかったが、 もともと病的なものではなかった。
【考察】顎機能に異常を持つ大学生は意外に多く、 早期の治療が必要であると考えられた。 一方、 顎機能に異常を持つ被験者を対象に鍼治療の効果を検討したところ、 痛みに関してはsham群に比べて鍼群に有意な改善がみられた。 このことから、 鍼治療は若者の顎関節治療に有効であると考えられた。
著者関連情報
© 2010 社団法人 全日本鍼灸学会
前の記事 次の記事
feedback
Top