全日本鍼灸学会雑誌
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原著
マニュアル鍼刺激が経頭蓋磁気刺激によるヒト運動誘発電位に及ぼす影響
小笠原 千絵新原 寿志谷口 博志日野 こころ早間 しのぶ角谷 英治北出 利勝
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2011 年 61 巻 2 号 p. 164-173

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抄録

【目的】鍼がヒト運動機能に及ぼす効果とその作用機序を明らかにするために、 四肢へのマニュアル鍼刺激が経頭蓋磁気刺激により誘発される運動誘発電位に及ぼす影響について検討した。
【方法】対象は、 インフォームド・コンセントを得た健康成人男性6名と女性4名の計10名 (年齢27±7歳:平均±標準偏差) とした。 運動誘発電位は、 磁気刺激装置付属 (Magstim model 200、 Magstim社、 USA) の円形コイルを用い、 磁気刺激を左大脳皮質運動野に与えることにより右小指外転筋から誘発した。 測定は、 鍼刺激前、 鍼刺激直後、 5分後、 10分後とした。 鍼刺激はステンレス製の毫鍼 (40ミリ、 18号、 セイリン社、 静岡) による雀啄術 (1Hz、 1分間) とし、 刺激部位は手足の第一背側骨間筋上の経穴 (右合谷穴、 左合谷穴、 右太衝穴、 左太衝穴) のいずれか1穴とした。 また、 右小指外転筋および左小指外転筋の運動想起中さらに左右合谷穴および左右太衝穴への皮膚ピンチ刺激中の運動誘発電位を測定した。 統計解析には、 群間比較に二元配置反復測定分散分析を、 各群の経時データの比較には一元配置反復測定分散分析およびDunnett法を用いた。
【結果】測定対象筋 (右小指外転筋) の遠隔部である左合谷穴あるいは右太衝穴への鍼刺激は、 その運動誘発電位の振幅を鍼刺激前に対して有意に抑制した (各 P<0.01)。 しかし、 近傍部の右合谷穴への鍼刺激では、 10例中8例が減少するものの有意差は認められなかった (P=0.26)。 一方、 右小指外転筋の想起と右合谷穴皮膚上への侵害刺激は、 運動誘発電位の振幅を鍼刺激前に対して有意に増加させた (各 P<0.001, P<0.01)。 今回の鍼刺激に対し、 被験者の多くは、 「かなり強い」 あるいは 「強い」 と回答した。
【考察および結語】これらの結果から、 遠隔部への鍼刺激は、 複数のルートを介して運動系を抑制する可能性が、 一方、 近傍部 (右合谷穴) への鍼刺激は、 抑制と共にMEP誘発筋周囲への意識集中による促通をもたらし、 その抑制効果を相殺する可能性が示唆された。

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© 2011 社団法人 全日本鍼灸学会
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