全日本鍼灸学会雑誌
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スポーツ鍼灸委員会企画講演
女性アスリートに求められるコンディショニング: 女性医学的問題と鍼灸治療の事例
室伏 由佳
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2019 年 69 巻 3 号 p. 166-175

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抄録

アスリートが大会で最高のパフォーマンスを発揮するためには、 個々の最適なコンディション状態を正確に把握する必要がある。 トレーニングでは、 体力や気力の限界に挑戦する事が多く、 その際生じるスポーツ傷害などの整形外科的なトラブルやコンディション不良は避け難い。 加えて、 女性は月経周期に伴うホルモンの変動や月経随伴症状の影響を差し置く事は出来ない。 筆者は、 競技者時代にスポーツ障害や婦人科疾患を経験した。 2004年アテネオリンピック (陸上競技女子ハンマー投) に出場した翌年から競技引退の2012年まで急性腰痛症を繰り返し発症し、 トレーニングやコンディショニングに苦戦した。 女性の健康問題にも直面し、 子宮内膜症 (卵巣チョコレート嚢胞) の罹患など、 過多月経に起因する貧血や、 強い月経痛を経験した。 月経前症候群にも悩まされ、 月経前に身体の浮腫みや張りが生じ体調を崩しがちであった。 2009年に両側チョコレート嚢胞摘出術を行ったことを機に全身の不調を体感し、 コンディショニングの一環として鍼灸院に通う機会が訪れた。 東洋医学における人体の循環系の側面から 「肝の体質」 であるとされた。 身体の疲労状況を自覚できる機会ともなり、 不調のままトレーニングを強行する習慣を改め、 オーバーワークや傷害予防への対処法として貢献した。 女性アスリートの健康問題については、 月経痛を放置せず早期に診断や治療を受ける事で器質性への進行を予防できる事が注目されている。 自身に合うホルモン療法により月経に纏わるトラブルから解放された経験から、 女性アスリートはかかりつけの婦人科医を確保して定期検診を欠かさない事が勧められる。 更に、 月経周期を考慮したトレーニングを行うのみならず、 月経に伴う苦痛を適切に取り除く対症療法の他、 ホルモン療法も考慮する事が好ましい。 診断が可能な医学との連携を持ちながら、 鍼灸治療等、 個々に適したコンディショニング方法を見出す事が望ましい。

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