全日本鍼灸学会雑誌
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臨床体験レポート
鍼灸師の新たな評価指標の試み-運動器疾患をともなう重度心不全の1症例-
山下 和彦
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2020 年 70 巻 1 号 p. 57-66

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抄録

【目的】本研究は、 心不全増悪による在宅医療において、 心臓リハビリテーション阻害因子の軽減・除去を目的とした鍼治療を行う上で、 鍼灸師の新たな評価指標の試みについて検討した1症例報告である。 【方法】現代医学的考察による鍼治療を行い、 心拍変動 (HRV: Heart Rate Variability)、 呼吸性洞性不整脈 (RSA: Respiratory Sinus Arrythmia)、 経皮的動脈酸素飽和度 (SpO2: Satuation pulse O2) により評価を行なった。 心拍変動解析はR-R間隔時系列データから高速フーリエ変換法 (FFT: Fast Fourier Transform) によるスペクトル解析を行った。 【結果】心不全発症前の鍼治療について、 HRVによる心臓副交感神経は機能亢進を示したが、 HR、 RSAの改善は示さなかった。 心不全発症後の在宅医療における鍼治療後では、 HRV、 RSAによる著明な心臓副交感神経の機能亢進、 心臓交感神経の機能抑制、 心拍数の減少には至らなかった。 SpO2は、 在宅酸素療法により安定した。 【考察】日本における今後の医療は、 急性期医療の処置からできるだけ早い多職種連携の地域包括ケアが前提となる。 しかし、 現状の保険医療における鍼灸師の役割は不明確である。 今後、 鍼灸師がチーム医療の一員として受け入れられるには、 鍼灸師は患者の苦痛を軽減・除去し、 QOLを目的としたリハビリテーション支援のために、 多職種医療連携の取り組みを可能とする客観的評価指標による情報提供、 情報共有が必要と思われる。 【結語】今後急増することが推計されている心不全に対して、 HRV、 RSAは鍼灸師がチーム医療の一員になるための情報として、 その有効性が示唆された。

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