1990 年 40 巻 2 号 p. 188-194
伏在神経本幹と膝蓋下枝の entrapment neuropathy (以下ENと略す) について, 筆者が考案した治療点及び症例について若干例報告する。伏在神経本幹のENはまれであり, 筆者が最近3年間に経験した症例は1例のみである。これに対し膝蓋下枝のそれは, 日常の外来で膝痛を訴えて来院する患者にしばしば認められており, 下枝にみられるENの中でも比較的多い疾患と言える。しかしながら, 変形性膝関節症等の膝関節疾患として誤診されている場合も多く, 鑑別上念頭におくべき疾患と言える。本症は筋, 筋膜による絞扼が原因となる為, 針刺治療の効果も優れており, 手術を要するような重症例もほとんど無く, また, risk も少ない為針刺治療上有用な疾患と考えられる。筆者が行なっている治療法は, 絞扼の原因となる筋群の spasm を緩解せしめることを目的にしており, 現在までにほぼ満足のいく効果を得ている。鎮痛機序としては, 軸索反射1, 2)によって筋の spasm が緩解され, 神経の絞扼が除去されたものと解釈している。