全日本鍼灸学会雑誌
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糖尿病に対する鍼治療の一症例
インスリン療法による低血糖状態患者
中村 弘典絹田 章黒野 保三
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1999 年 49 巻 2 号 p. 305-310

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抄録

本症例は5年前に内科で糖尿病と診断され、原因としては家族的に美食家で高カロリー食による肥満がインスリン作用不足を招き、糖尿病を発症させたものと思われる。そしてインスリン療法を行っているが、この頃に肥満していたことや口渇・多尿・体重減少などの急激な症状がないことから、インスリン非依存型糖尿病と思われる。
初診時に訴えている身体がだるく疲れやすい、手足がしびれる、眼がかすむ症状は初診時の食後3時間の血糖値が64mg/dlであったことから、インスリン療法による低血糖が誘因と思われる。
また、膝痛は病院では糖尿病性のものと推察しているものの、糖尿病が膝痛の改善を困難にしている一因と考えられるが、インスリン療法により空腹時血糖値のコントロールがなされているにもかかわらず症状が改善されないことや関節の変形及び軟骨の損傷があると思われることから肥満及び加齢による膝痛と思われる。
したがって、糖尿病専門医の指示に従って、インスリン注射の投与量を減らすと共に全身調整と膝痛の改善を目的とした鍼治療を行うこととした。
今日の糖尿病治療は経口血糖降下剤やインスリン療法などの進歩により、糖尿病患者の生存期間や予後は著しく改善した。しかし、我々の鍼灸院に来院する糖尿病患者に経口血糖降下剤やインスリン療法の開始時期や投与量に疑問のある患者がみられる。そこで、今回インスリン療法を開始しているが、かえって血糖値を下げすぎていると思われる症例に対し、糖尿病専門医の指示に従って、インスリン注射の投与量を減らすと共に全身調整を目的とした鍼治療を行い、糖尿病カルテを使用し糖尿病のコントロール状態を検討した。その結果、主訴である両膝の痛みをはじめ、低血糖によると思われる自覚症状に改善がみられた。このことから、鍼治療は糖尿病のコントロール状態を良好に保つために有用であることが示唆された。

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