全日本鍼灸学会雑誌
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OSCEの実際とその問題点
木村 博吉小島 賢久菅原 之人鈴木 盛夫武藤 永治杉山 誠一丹澤 章八
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2003 年 53 巻 5 号 p. 614-625

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抄録

OSCE (Objective Structured Clinical Examination;客観的臨床能力試験) は, 1975年Hardenらによって開発, 提案された方法で, 臨床能力を適正に評価する方法として世界に広く導入されている。わが国では94年に川崎医科大学で初めて実施され, 現在ではほとんどの医学部・医科大学で行われているだけでなく, 看護などコメディカルの教育にも導入されつつある。
鍼灸教育においては, 97年丹澤らの実験的報告によって紹介されたものの, 当初教育現場の反響はさほど大きなものでなく関心も薄かったが, その後次第に関心が高まっていった。
2000年, 鍼灸教育におけるepoch makingともいえる「鍼灸等臨床教育におけるOSCE導入に関する研究」 (文部科学省委託研究) が始まり, 以後3ヵ年にわたり東洋療法学校協会加盟校, 盲学校, 大学, 短大の教員が参加のもとに調査・研究が行われ, 多くの意義ある成果を得た。こうした調査・研究活動がOSCE啓蒙の機会を広げ, その進展に伴い, いくつかの専門学校, 盲学校, そして大学においてOSCEが試行されるようになった。
今や鍼灸教育におけるOSCEは, 「啓蒙の段階」から「実施と成果検証の段階」へと移りつつあるといえよう。
このような現状を踏まえて, 今回のパネルでは既にOSCEを実施している養成校5校の教員 (OSCEを担当された) から, 1) OSCE導入の目的, 2) 実施状況, 3) 実施の上での問題点, 4) 今後にむけた実施方針などについて報告を頂き, 引き続き「OSCEを実施して学生や教員がどう変わったか?」, 「今後の課題は何か?」などの課題を提示して討論を行った。
OSCE導入の背景は各校それぞれであるが, 目的は5校のうち3校が卒業や進級判定のための総括評価として実施, 2校が形成的評価として実施しており, 実施の時期や評価の対象者に相違がみられた。設置ステ作ションについては, カリキュラムの移行期にあたる1校を除く全ての養成校で「医療面接」ステーションが設けられ, 鍼灸教育におけるコミュニケーション能力習得に向けた取り組みが徐々に広がりつつあることが伺われたが, 評価の上で重要な役割を担うSP (Standardized Patient;標準模擬患者) の確保や育成に苦慮している様子が報告された。
OSCEの長所としては, 情意領域と精神運動領域の評価法として優れているだけでなく, OSCEを実施することによる学生の積極的学習に向けた態度の形成や, 教員にとっては学生の出来ている点と出来ない点とが明確になり, 指導上有益なフィードバックが得られることなどが挙げられた。作方, 短所としては, 各校とも労力・場所・時間などの問題点が大きく, これらのことによりOSCE実施に躊躇している養成校も多いと考えられた。
今後の課題としては, 評価としての信頼作生について検証していくことや, 人材の共同利用と外部評価の導入という観点から, 単独での実施ではなく学校間で協力し合いながら, 共通の評価基準のもとに相互に評価しあうというシステムづくりの検討, さらには卒前教育のみならず, 卒後臨床教育におけるOSCEのあり方についての検討も必要と思われる。
今回のパネルが, 今後OSCEを実施する養成校にとって参考となれば幸いである。

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