2021 年 53 巻 1 号 p. 49-56
本研究は,イタリア後期ゴシック期のフレスコ画におけるストゥッコ技法に関する研究である。これまで,シエナ派のフレスコ画に特徴的な漆喰によるストゥッコ技法を調査してきた。特に,円光における漆喰のストゥック技法はシエナ派の特徴の1つとして知られている。2019,20年にサン・ジミニャーノ参事会教会フレスコ画『新約聖書伝』の円光を調査したところ,漆喰が軟らかいうちに型押しするシエナ派の一般的なストゥッコと異なる技法が,一部の画面に採用されていたことが判った。本稿では,同壁画に採用されたこの特異な円光技法について,これまでの研究の成果と当時の技法書に基づき,その具体的な技法を検証した。その結果,シエナ派の一般的な技法ではなく,工房等の別の場所で装飾パーツを作りそれを壁画の施工箇所へ貼り付ける手法であったことが明らかになった。