2010 年 30 巻 3 号 p. 446-451
1942年に非脱分極性筋弛緩薬クラーレが臨床に用いられてから,脱分極性筋弛緩薬の迅速な筋弛緩効果発現に近づく安全な非脱分極性筋弛緩薬の開発が待たれていた.2007年,日本で効果発現が迅速な非脱分極性筋弛緩薬ロクロニウムの臨床使用が可能となった.このロクロニウムは欧米各国ではすでに1990年代前半から使用開始されている筋弛緩薬である.日本で最も使用頻度の高いベクロニウムと類似するステロイド系筋弛緩薬であるが,力価はベクロニウムの約1/6と低いが効果発現はベクロニウムと比較して迅速であることが特徴である.したがって,通常の気管挿管ばかりでなく迅速気管挿管において脱分極性筋弛緩薬にとって代わる可能性が期待されている.一方,ロクロニウムは体内でほとんど代謝されず,血漿中にきわめて少量検出される代謝産物の筋弛緩作用もほとんど認めず,長時間投与にも問題ないとされる.短時間効果発現と蓄積性を有さない非脱分極性筋弛緩薬ロクロニウムの特徴をこれまで広く用いられてきた筋弛緩薬ベクロニウムおよびスキサメトニウム(SCC)と臨床的に比較し,ロクロニウムの特徴を気管挿管,麻酔維持,そして拮抗について解説する.