2020 年 40 巻 1 号 p. 50-56
術後せん妄は,手術を契機に発症する一過性の精神・認知障害である.術後せん妄の発症は,特に高齢者において,その後の認知症発症リスクを増大させることが示されている.術後せん妄における認知症状の病態機序には,脳内神経炎症が重要な役割を果たすことが示唆されているが,現時点で特異的な治療法はない.一方,これまでの臨床研究では,入院時せん妄の30〜40%は,集学的アプローチにより予防しうることが報告されている.その中で,区域麻酔の使用は,優れた鎮痛効果および全身麻酔の回避といった観点から,術後せん妄の予防に対して特に有効である可能性がある.本稿では,術後せん妄の現状,およびその予防法としての区域麻酔の役割について概説する.