抄録
老年者において前投薬筋注投与の血清CPK値に及ぼす影響についてレトロスペクティブに検討した.通常使用量の前投薬の筋注1回投与によりいずれも血清CPK値は上昇したがその程度は薬剤の種類によって異なっており,ヒドロキシジン・ペンタゾシン混筋注群,ヒドロキシジン筋注群で有意の上昇を認めたがメペリジン筋注群では非筋注群に比し有意差がなかった.また,このCPK値の変化が筋注後1時間という短時間で認められた.これまでに前投薬の筋注投与による血清CPKの変動を検討したものは少なく,日常使用する薬剤でこのように差異が大きいことは興味深い.血清CPK値は全身の筋肉量をある程度反映しており,lean body massの少ない老年者では筋注時のCPK値の変動が小さいと考えられるが,老年者でも薬剤によっては比較的短時間に有意な上昇が認められることが確認された.今後,老年者の術中・術後CPK値の評価を行なう場合や麻酔直前に心筋梗塞の診断を行なう場合などで,この前投薬筋注投与によるCPK値の上昇の程度も考慮する必要があると考えられる.