抄録
心循環系に病歴のない患者に上下顎骨骨切術が予定され,全身麻酔(N2O-イソフルラン)下で術野にアドレナリン添加リドカインを局注直後,上室性頻拍が発現した.ジルチアゼム10mgに続きジソピラミド50mgを静注したところ漸次洞調律に回復した.手術を延期し病因を精査した結果,電気生理学的検査により心房粗動の診断を得た.術前に貯血式自己血を準備したうえで,術中の出血量軽減・頻脈抑制を図るためニトログリセリンにジルチアゼムを併用した低血圧法を実施し,血圧・心拍数を円滑に調整し得た.本症例の周術期管理は,心房粗動素因による頻拍発症を防止する意味で有用であると考えられた.