抄録
両側鼠径ヘルニアを有する2ヵ月の女児が鼠径ヘルニア根治術のマスクによる全身麻酔の導入時に多量の胃内容の逆流をきたし,一時換気困難(SpO2 70%)となった.換気困難は軽快し,胃内からミルク約50mlが吸引された.手術は予定通り行われた.術前の絶食絶飲指示は守られていた.術後,肥厚性幽門狭窄症を有していたことが判明した.患児は低出生児で,発育は良好であったが,母親は「やや吐きやすい子である」という印象をもっていた.小児外科医,麻酔科医は誰一人として術前に肥厚性幽門狭窄症の存在を考慮しなかった.このように,肥厚性幽門狭窄症は術前に予測することが困難な場合がある.嘔吐しやすい乳幼児の術前診察では本疾患を念頭におく必要があろう.