1993 年 32 巻 3 号 p. 429-434
主として乳幼児の上顎骨に発生する, きわめてまれな腫瘍であるmelanotic neuroectodermal tumor of infancyの典型例を経験したので報告する. 症例は5カ月の男児で上顎部の腫脹を主訴とし, CTにて同部の腫瘍を指摘され外科的に切除された. 腫瘍は黒色を呈し, 組織学的にはメラニン顆粒を含む大型の細胞と神経芽細胞様の小型細胞の2種類からなり, 不規則な巣状構造を形成していた. 酵素抗体法により大型細胞はNSE, S~100に対する抗体に反応し, また小型細胞ではNSEが陽性であった. 電顕による検索でも大型細胞の細胞質にはさまざまな成熟段階のmelanosomeが認められ, また小型細胞は神経芽細胞に類似した所見を示した. 以上の結果からこの腫瘍がneural crestの細胞由来であることが示唆された. この腫瘍は一般的には良性とされているので, 悪性黒色腫などとの鑑別が必要で, 特に乳幼児の上顎部発生の色素性腫瘍の診断にはこの疾患を念頭に置く必要がある.