2002 年 41 巻 3 号 p. 180-185
背景:便秘症のカルチノイド症候群を呈した卵巣甲状腺腫性カルチノイドの1例を経験し, その腫瘍発生の検索のために二重染色による免疫組織化学的な検索を行った.
症例:48歳, 女性. 画像診断で右卵巣に手拳大の腫瘤を認め, 成熟型奇形腫が疑われ摘出手術を施行し, 甲状腺腫性カルチノイドと診断された. 捺印細胞像では, コロイド様の無構造物質を背景に, 腫瘍細胞はシート状集塊または散在性, 一部濾胞構造, 腺管様構造, 索状配列を示していた. 細胞は比較的小型の類円形から円柱形で, 細胞質はレース状ないし顆粒状でライトグリーンに淡染し, 核は類円形, 核縁は薄く, クロマチンは軽度増量し, やや粗顆粒状で均等分布していた. 組織学的に腫瘍はカルチノイド, 甲状腺腫およびそれらの移行部分から構成されていた. 免疫組織化学的に移行部分はthyroglobulin, chromogranin A両者に陽性を示した.
結論:本例の診断に大切なことは, カルチノイドに特徴的な細胞所見と, 甲状腺腫としてのコロイドを含む濾胞構造に着目したことであった. また免疫組織化学的染色結果から, 本腫瘍発生は, 腫瘍細胞が多分化能を持っていることと密接な関係があると考えた.