2021 年 23 巻 1 号 p. 3-9
目的:大腿骨近位部骨折で低下したactivities of daily living(ADL)の回復は、骨折前の状態や認知症の合併などに左右されることがわかっている。そこで、筆者らは骨折患者を骨折前のBarthel Index(BI)と「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準(認知症自立度)」の組み合わせで6群に分類し、予後予測に有用であることを報告してきた。今回の研究では、BIに加えてBI損失量(骨折前BIと観察時BIの差)という指標を用いて、各群の回復の推移の特徴を明らかするとともに、退院時のBI損失量を用いて退院時アウトカムを設定し、バリアンス発生に影響を与える因子を探索する。
方法:2018年1月1日から2019年12月31日までに登録された大腿骨近位部骨折地域連携パス(以下、大腿骨パス)患者286例から必要なデータを抽出し、BI損失量の推移を分類ごとにグラフ化するとともに、バリアンス発生に影響を与えている因子について統計学的に検討した。
結果:認知症自立度Ⅱ以上の群のBI回復曲線は認知症自立度Ⅰ以下の群の回復曲線に比して緩く、退院時のBI損失量も有意に高かった(p<0.01)。バリアンス群と非バリアンス群の比較では、バリアンス群の早期BI損失量は非バリアンス群に比し大きく(p<0.01)、退院までその差が縮まることはなかった。準ねたきり~寝たきり群の回復はより緩いものの退院時には骨折前のADL以上に改善する例が半数にみられた。
結論:認知症はBI回復に負の影響を与えていた。早期の適切なリハビリテーションがBI回復のクリティカルインディケーターと考えられた。寝たきり群においてもリハビリテーションの継続はQOL向上に寄与する可能性が示唆された。