犯罪社会学研究
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児童虐待としての「代理人によるミュンヒハウゼン症候群」
社会・医療・司法手続におけるMSBPの問題点
南部 さおり
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2002 年 27 巻 p. 60-73

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抄録

「ミュンヒハウゼン症候群」は,自らが病気であると偽装する(虚偽性障害)人々が,重症にまで至ったとされる程度の行為態様を指す.同症候群として示される人々は,病気という社会的な一大事を演出することで,周囲から注目を集めることを目的として行動する.したがって,そのような歪んだ虚栄心が充足されるのであれば,自らにではなく,自分に近い人物に対して病気をでっち上げるという方法によって,その目的を達成することもある.そしてその場合には,仮病や詐病を強要するなどの婉曲な方法をとらず,実際に特定の他者,特に脆弱な乳幼児を「病気にしてしまう」のである.「代理人によるミュンヒハウゼン症候群 (Munchausen syndrome by proxy=MSBP)」とは,このような方法で行なわれる,虐待の一形態を指す.本稿では,MSBPという特殊な行為が社会的にどのような意味を持つのか,さらには医療機関,捜査機関,裁判所のそれぞれが,MSBPを扱うに際してどのような点に留意すべきか,そしてどのように対処すべきかを明らかにする.MSBPは,児童の生命や身体を脅かす,きわめて危険な虐待行為である.したがって,まずはMSBPという犯罪が社会的に認知される必要があり,さらには冤罪を生み出さないための適正な基準と正確な事実認定が要求される.そのためには,同行為に関する医学的研究から学びつつ,新たにMSBPを社会病理としてとらえなおす必要があると考える.

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© 2002 日本犯罪社会学会
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