犯罪社会学研究
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変容の瞬間 (課題研究 犯罪者の立ち直りと犯罪者処遇のパラダイムシフト)
リカバリーとアイデンティティ変容のナラティブ
ヴェイジー ボニータ・M.クリスチャン ジョナ
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2009 年 34 巻 p. 7-31

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抄録

さまざまな分野の研究者が,病気から健康,アディクションからリカバリー,犯罪者から市民といった,「変化」の本質に関する,類似した問いを問い始めた.こうした議論すべての本質にあるのは,アイデンティティ変容の概念である.これらの視座すべてが共有するのは,(1)公的システムが個人を変容するにあたってもつ限界,(2)文化的・個人的なナラティブに根ざす個人的アイデンティティの重要性,(3)欠点を強調しなくなってきたこと,(4)問題と解決を定義する上での社会的コンテキストの役割,(5)病気と健康における役割アイデンティティの重要性である.スティグマ化された役割から社会的に望ましい役割へと続く道をたどり得た人々の,変化のナラティブを収集し分析することを通じて,本研究は,変化の個人的意味,触媒として働く要因,この過程において最終的に取得される役割の性質を探求する.本研究は,スティグマとなるような負の人生経験を持つ人々であっても,こうした経験からのリカバリーや癒しを,自らのライフ・ナラティブの中心として,論じているわけではないことを明らかにした.多くの場合,回答者にとって最も重要な問題は,自尊心の不足,孤立,失業といった,公的な矯正・治療システムの外側にいる普通の人々と共通の問題であった.また,かれらの最終的な地位も,家をもつこと,親となること,大学を卒業すること,意味ある仕事をすることといった,社会全般の人々と共通の達成であった.専門家は,眼前の問題が援助を求めている人にとってもっとも重要な問題ではない可能性があることを理解しなくてはならない.さらに,援助を求めている人々は,リカバリーの過程を支えるために動員しうる,多様な役割とアイデンティティを持っている.個人のライフ・ナラティブに耳を傾けることは,投薬,セラピー,介入といった,専門家の装備における道具と同様に重要となるだろう.

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© 2009 日本犯罪社会学会
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