2017 年 42 巻 p. 74-90
近年,欧米において,犯罪や非行からの立ち直り(デシスタンス)に多くの関心が寄せられている. しかしながら,本邦では,犯罪や非行からの立ち直り過程に関する実証的研究はほとんど行われてい ない.本研究の目的は,日本の男子少年院からの出院者103名のサンプルデータを用いて,非行から の立ち直りに関する要因を調査することである.書面による調査への参加同意が得られた被験者は, 出院後1年半から2年間の追跡調査を受けた.45名(43.7%)は再非行が認められた一方,58名 (56.3%)は,調査期間中の犯罪や非行が認められなかった.再非行群に比べて,デシスタンス群は, 自信,希望,目標指向性といったポジティブな認知的要因において,有意に高い得点を示した.これ らの知見は,過去の研究や実務家の経験と一致するものである.本研究は,いくつかの研究上の限界 はあるものの,犯罪や非行からの立ち直り過程に焦点を当てた本邦における最初の実証的研究の一つ であり,本研究領域に大きく寄与するものである.刑事司法の実務に対する示唆や更なる研究に向け た方向性について論じた.