日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
定期訪問歯科診療により高齢認知症患者にClass ⅢBの悪性リンパ腫疑い病変を発見しえた1例
山口 真広森田 浩光
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2015 年 36 巻 4 号 p. 643-647

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抄録

口腔の悪性腫瘍は,一般歯科診療において偶然発見されることが多い.今回われわれは,高齢の認知症患者への定期訪問歯科診療により,偶然,副鼻腔から口腔へ広がる悪性リンパ腫疑い病変の発見にいたった症例を経験したので報告する.
患者は94歳の女性.発作性上室性頻拍を伴う重度心不全,肺炎および認知症により近隣の急性期病院に入院中であった.義歯装着時の痛みを主訴に,医科主治医および家族からの訪問歯科診療の依頼により当科初診となった.初診時に,左側口蓋後縁にアフタ様の病変が観察された.われわれは,上顎義歯の不適合によるアフタ性口内炎と診断し,義歯調整を行った.1週間後に経過観察を目的に訪問したところ,病変は表面が粗糙になり,大きさも約2倍に膨隆していた.悪性腫瘍の可能性を考え,当院口腔外科へ紹介した.その結果,左側上顎洞全体に浸潤する悪性リンパ腫疑いと診断し,当院耳鼻咽喉科への再紹介となった.耳鼻咽喉科では,MRI撮影後に全身状態や年齢および腫瘍の進展を考慮して生検を取りやめ,家族には積極的な癌治療は行わず,緩和ケアとするよう勧めた.緩和施設へ転院するまでの間ではあったが,われわれは緩和ケアの一環としての歯科的介入として口腔ケアを持続して行った.今回の経験から,訪問歯科診療において継続的な歯科介入は,口腔環境の維持だけでなく口腔の悪性病変の早期発見という意味でも非常に重要であることが示唆された.

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© 2015 一般社団法人 日本障害者歯科学会
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