日本障害者歯科学会雑誌
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講座
原著
  • ―第1報:毛先の追従性と清掃性―
    遠藤 眞美, 地主 知世, 三枝 優子, 高柳 篤史, 野本 たかと
    2020 年 41 巻 2 号 p. 72-81
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    障害児者の効率的なブラッシングには適切な歯ブラシの選択が重要だが,歯ブラシの選択の客観的な指標はない.本研究では客観的指標を得るために評価モデルを用いて歯ブラシの機能を評価した.

    試験歯ブラシは,タイプI:3列平切り,タイプII:4列スーパーテーパード毛,タイプIII:4列段差植毛とした.平板に直径8.0mmの半円柱を設置したモデル(以下,SHCモデル)を用いて,追従性と清掃性を評価した.追従性はモデルをブラッシング時の歯ブラシのヘッドの垂直方向の加速度を指標とした.清掃性はモデルに貼付した磁気テープの剝離状態で評価した.

    本研究条件下での追従性はII,III,Iの順で,清掃性はIIIが他に対して有意に高かった(p<0.01).

    Iは高い清掃性で低い追従性のため高いスキルがあれば問題ないが,運動領域の障害では細部の清掃が困難と予想された.IIは高い追従性による滑らかな動きから感覚過敏や痛みを有する場合に適すると推察された一方で,低い清掃性のために多くの清掃回数が必要と考えられた.IIIはIよりも追従性が高く,清掃性も高いことから,歯ブラシを清掃面に接触させにくい運動障害や少ない清掃回数になりやすい情意領域への配慮が必要な障害児者に効率的な清掃となる可能性が推察された.

    SHCモデルを用いて構造の異なる歯ブラシの追従性と清掃性を明らかにできた.本結果を組み合わせることで,障害特性に合わせた歯ブラシ選択の指標となる可能性が示唆された.

症例報告
  • 財間 達也, 藤川 順司, 村上 旬平, 秋山 茂久
    2020 年 41 巻 2 号 p. 82-88
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    表皮水疱症は皮膚粘膜の水疱形成を主徴とする遺伝性疾患である.水疱形成とその治癒に伴い,皮膚や粘膜の癒着や瘢痕化が生じることがある.口腔周囲では口腔前庭の狭小化や開口障害を呈することがあり,口腔清掃状態が不良となりやすい.エナメル質の形成不全も認めることがある.本邦では歯科的所見についての症例報告はあるものの,口腔内外の特徴と歯科的所見をまとめたものは少ない.今回われわれは,劣性栄養障害型表皮水疱症者の口腔内の所見について,全身的な特徴とともにまとめ,その実態を明らかにした.

    大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部を受診した劣性栄養障害型表皮水疱症児者9名の受診時に得られた臨床データを用いた.

    全身所見として,皮膚粘膜の潰瘍やびらんと,治癒に伴う瘢痕や癒着,拘縮がみられた.処置経過中に皮膚悪性腫瘍を生じた者もあった.口腔については,開口量は19.0±9.0mmと小さく,全例に口腔前庭の狭小化がみられた.平均う蝕経験歯数は14.3±8.4歯と全国平均の10.2±6.6歯を上回り,う蝕が多発する傾向にあった.88.9%にエナメル質形成不全がみられた.

    劣性栄養障害型表皮水疱症では,口腔周囲の皮膚粘膜の損傷と治癒に伴う瘢痕化や拘縮により,開口量の減少や口腔前庭の狭小化をきたす.このため,口腔清掃が困難となりう蝕が多発する傾向にある.

  • 尾崎 貴子, 野口 いづみ, 大島 朋子, 佐藤 健一
    2020 年 41 巻 2 号 p. 89-93
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    歯科治療時に筋緊張が亢進し,治療に難渋していた気管腕頭動脈閉鎖術後の重症心身障害者に対して亜酸化窒素吸入鎮静法を用いて良好に治療が行えた症例を経験した.患者は35歳,男性.喉頭気管分離術後であり,2007年の初診以降,定期的に歯科検診を受けていた.先天性ミオパチーのほか,けいれん重積型急性脳症後遺症として知的障害,てんかん,四肢の緊張があった.歯科で定期的に検診や口腔清掃を受けていたが,鎮静は行われていなかった.歯科治療時に筋緊張が一層亢進するようになったため,今回,亜酸化窒素吸入鎮静法を適用した.気管分離孔に蛇管を接続し亜酸化窒素を吸入させると適切な鎮静状態を保つことができ,筋緊張が緩和されたことにより問題なく歯科治療が行えた.喉頭気管分離術後の患者には亜酸化窒素吸入鎮静法が比較的容易に適用できるが,呼吸回数や呼吸量の減少などの呼吸抑制を想定して対処することが必要である.また,気管腕頭動脈閉鎖術後の患者に歯科治療を行う場合は頭位変換による過剰な頸部への負荷や,人工呼吸器からの気管カニューレへの振動に注意する必要がある.

臨床集計
  • 長田 豊, 喜多 慎太郎, 井元 拓代, 三村 恭子, 髙比良 喜世美, 川添 朋子, 松延 厘奈, 吉田 敏, 多良 龍男, 斎藤 秀文
    2020 年 41 巻 2 号 p. 94-99
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    スペシャルニーズのある患者は,歯科治療に不適応な場合も多く,特に根管治療は困難である.今回,スペシャルニーズのある患者の根管治療の予後調査を行ったので報告する.

    2019年12月から2020年2月までの3カ月間に長崎県口腔保健センター歯科診療所に受診した障害のある患者のうち,過去に長崎県口腔保健センター歯科診療所で根管治療を行った歯を対象とし,臨床所見とデンタルエックス線写真所見から予後を判定した.調査対象は48人(平均年齢47.3±12.0歳)の150歯であった.診断名は,歯髄炎61例(40.7%),根尖性歯周炎89例(59.3%)であった.障害別では,知的能力障害15名(31.3%),自閉スペクトラム症11名(22.9%),脳血管障害後遺症7名(14.6%),その他,脳性麻痺,ダウン症候群,精神疾患などであった.行動調整は,身体抑制13名(27.1%),静脈内鎮静法4名(8.3%)であった.予後良好と判断した歯は136例(90.7%)であり,歯髄炎96.7%,根尖性歯周炎86.5%であった.また,根尖性歯周炎のうち,治療後に根尖部透過像が消失した歯は38例(63.3%),縮小した歯は8例(13.3%)であった.

    今回,スペシャルニーズのある患者の根管治療の予後調査を行った結果,健常者の報告と同等に良好な結果であった.障害があり治療が困難だからと安易に抜歯せず,的確な根管治療を行うことにより,スペシャルニーズのある患者の口腔の健康を長く維持できると思われた.

  • 田崎 園子, 原 麻莉, 中山 朋子, 尾崎 茜, 原田 真澄, 樋口 勝規, 小島 寛
    2020 年 41 巻 2 号 p. 100-105
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    本研究は,患者の障害の種類により発生しやすいインシデントに特徴があるかどうかを明らかにすることを目的とした.

    2008年4月から2019年3月までに当院障害者歯科の歯科医師および歯科衛生士により報告されたインシデント報告書を収集し,障害別(肢体不自由,発達障害,知的能力障害,精神障害)に分析した.その結果,インシデント報告書の総数は120件であり,そのうち72件が患者に直接関わるインシデントであった.全体のなかで,最も多いインシデントは「口腔内への歯・器具の落下」(23件)であった.障害の種類別では,肢体不自由で最も多いインシデントは「口腔内への歯・器具の落下」(8件)であり,次いで「嚙み込みによる歯・器具の破損」(7件)であった.発達障害で最も多いインシデントは「パニック・自傷・もの壊し」(10件)であった.知的能力障害では「口腔内への歯・器具の落下」(9件)が最も多く,次いで「処置による粘膜損傷」(6件)であった.また,発達障害では治療中および治療後に医療事故が発生するのに対し,他の障害ではインシデントの80%以上が治療中に発生していた.

    これらの結果は,障害に特有なインシデントの傾向があることを示しており,患者が有する障害の種類ごとに医療安全上の配慮事項を理解する必要があることが示唆された.

  • 中嶋 真理子, 中山 朋子, 前濱 和佳奈, 緒方 麻記, 水谷 慎介, 小島 寛
    2020 年 41 巻 2 号 p. 106-111
    発行日: 2020/06/30
    公開日: 2020/10/31
    ジャーナル フリー

    知的障害者施設利用者のう蝕罹患状況および現在歯数とかかりつけ歯科の有無との関連を知ることを目的とした.

    知的能力障害者が利用する3つの施設において歯科検診を実施して未処置歯数,処置歯数,現在歯数を調査し,また,かかりつけ歯科の有無を施設職員から聴取した.調査対象者は知的能力障害110人,Down症候群16人,発達障害28人であった.

    1人平均未処置歯数は50~54歳および60~64歳,1人平均処置歯数は45~54歳を除き,各年齢層で施設利用者のほうが歯科疾患実態調査結果よりも小さい値を示した.かかりつけ歯科をもつ者ともたない者の1人平均未処置歯数および1人平均処置歯数は,それぞれ0.4±1.2歯と1.0±1.8歯,8.2±6.4歯と6.0±4.9歯であった.1人平均現在歯数は,35~39歳以降のすべての年齢層で施設利用者のほうが歯科疾患実態調査結果よりも小さい値を示し,60歳以降でその差が顕著となった.また,1人平均現在歯数はかかりつけ歯科をもつ者が21.3±9.6歯であるのに対し,もたない者が27.5±3.2歯であった.

    知的能力障害者施設利用者はう蝕罹患状況が定型発達者と同程度であるが,現在歯数については60歳以上で著しく減少することから,歯の喪失を抑制するためにかかりつけ歯科における長期メインテナンスが一つの課題ではないかと考えられた.

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