日本障害者歯科学会雑誌
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講座
宿題報告
  • 近藤 達郎, 李 昌一, 小松 知子
    2025 年46 巻2 号 p. 58-64
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    Down症候群(DS)者の口腔機能には,知的状況,構音機能,嚥下機能,解剖学的特徴などさまざまな要因が影響を与える.知的状況として200名余りのDS者の結果から,20~30歳では知能指数(IQ)が20~30程度(精神年齢が4~6歳)の者が多かった.DS者では成人期にも言語や口腔機能に関する課題を持続しているものの,ほとんどが小学校に就学する頃にハビリテーションが終了されていることが判明した.さらに,さまざまな口腔機能検査から,DS成人期における口腔機能は標準値と比較して低い傾向にあり,加齢とともにさらに低下することが明らかとなった.つまり,DS者では継続的なハビリテーションが必要であると考えられるが,リハビリテーションセンターなどでのハビリテーション/リハビリテーションは,限界があるという現状が明らかになった.

    自宅などで簡単にハビリテーション様の効果が期待できるコンテンツを作成し,人工知能(AI)を用いて,能力的な現状を測る評価法の開発を目指している「パタカラプラス」は,現在のわが国の実情の改善に適していると考えられる.当初は誰でも手軽に「パタカラプラス」コンテンツを利用できるように,YouTubeにアップロードすることから始めたが,「毎日使用するには,DVDのようなものがあるほうがよい」との意見を多くいただき,コンテンツグループで新たにDVDを制作した.

    「パタカラプラス」のトレーニングを6か月程度行い,実際に言語機能が改善するか,みさかえの園むつみの家の言語聴覚士が評価した.評価数が少なかったことが関係してか統計学的には有意差を見いだすことができなかったが,コンテンツでも力を入れている音節分解能力の向上が認められた例が多く(4/5),構音検査でも半数以上(5/9)で意義がある可能性が示唆された.さらに,小規模の支援学校分校で,「パタカラプラス」コンテンツ(DVD)のトレーニングをほぼ毎日,6か月間行ったところ,これもある程度の成果を収めた.

    「パタカラプラス」のAIを用いた自動評価については,音声に関しては,使用できるウェブアプリケーションを開発した.現在はまだ,単音(パ・タ・カ・ラ)の明瞭性をチェックできる程度であるが,今後,文章などの明瞭性評価や身体機能の自動評価を目指す予定である.さらに,DS児者の言語・嚥下の状況をチェックし,得られた疾患特性を参考にしてアプリケーションの向上に努める予定である.

原著
  • 有田 憲司, 阿部 洋子, 園本 美惠, 人見 さよ子, 篠永 ゆかり, 枡富 由佳子, 古川 彩子, 大東 美穂
    2025 年46 巻2 号 p. 65-73
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    Down症候群(DS)は,口腔機能の未熟な児が多いため,離乳期以降,DS児の母親は育児ストレスが増大する.われわれは,DS児に摂食嚥下機能発達支援を行うことにより母親の不安が軽減するか否かを明らかにする目的で,DS児の母親の不安を新版STAI検査によって初診時〔(以下,DS児の母(支援前)群〕と摂食嚥下機能の発達支援の終了時〔(以下,DS児の母(支援後)群〕に測定し,比較した.

    被験者は,大阪歯科大学附属病院小児歯科に摂食嚥下機能の問題を主訴に来院したDS児の母親33名であった.また,陰性対照として定型発達児の母親群32名についても新版STAI検査を行った.

    その結果,全尺度値に関しては定型発達児の母群とDS児の母(支援前)群の間に有意差が認められず,DS児の母群間においては,状態不安,特性不安ともに(支援後)群が有意に低い値を示した.下位尺度に関しては,DS児の母(支援後)群は,状態不安では不安不在尺度(A尺度)値が,特性不安では不安存在尺度(P尺度)値が(支援前)群より有意に低い値を示した.さらに,DS児の初診時年齢別に支援前後の得点を比較した結果,0~1歳群(15人)では,支援後の状態不安および特性不安のP尺度値が有意に低く,2歳群(9人)では,支援後の状態不安のA尺度値が有意に低い値であったが,3歳以上では差はなかった.

    以上より,2歳までにDS児へ当科で実施しているような摂食嚥下機能発達支援を開始すると,DS児の母親の特性不安を軽減できることが示唆された.

  • 朝比奈 滉直, 岡田 芳幸, 西野 領, 村上 康彦, 大崎 麻未, 轟 かほる, 小笠原 正
    2025 年46 巻2 号 p. 74-82
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    剝離上皮膜形成者の口腔ケアには,剝離上皮膜を軟化,除去しやすくするために口腔保湿剤が用いられる.しかし,既存の口腔保湿剤では除去が困難な場合があり,除去時の出血リスクもある.そこでわれわれは,天然多糖類で,ハイドロコロイドであるペクチンを用いたハイドロジェルによる剝離上皮膜の除去効果について検討した.

    同意を得た経管栄養の要介護者を2群に分け,調査を行った.まず口腔内診査にて口蓋付着物の有無と性状を記録し,病理標本作製に必要最低限の量を採取した.その後,口腔ケアを行い,口蓋粘膜ケアに際し,1群はペクチンハイドロジェル,もう1群はグリセリン含有保湿剤を用いた.調査は規定時間ごとに行い,各調査で口蓋粘膜ケアに要した時間とケア後の点状出血の有無を記録した.全調査終了後,ウォッシュアウト期間を経て,群を入れ替えて同様の調査を行った.剝離上皮膜の判定は作製した病理標本により行い,性状は視診により,なし,粘液状,粘稠状,乾燥膜状に分けた.統計解析は,使用口腔ケア用品による剝離上皮膜性状別ケア時間の比較にMann-WhitneyのU検定を,出血回数の比較にFisherの確率計算を用いた.

    ペクチンハイドロジェル群のほうが,乾燥膜状における粘膜ケア時間が有意に短かった(p<0.05).また,出血回数が有意に少なかった(p=0.039).以上より,ペクチンハイドロジェルの剝離上皮膜除去に対する有効性が示唆された.

  • 小笠原 正, 鈴木 香保利, 小松 知子, 久保田 智彦, 朝比奈 義明, 天野 郁子, 井東 竜彦, 江面 陽子, 勝連 義之, 菊池 和 ...
    2025 年46 巻2 号 p. 83-90
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,障害のある子どもの保護者に対し「障害者の口腔診査や歯科治療を行っている歯科医院を探したことがあるか」を尋ね,その結果をふまえて障害のある人の歯科医療環境の改善に役立てることを目的とした.4つの国内障害者団体に調査を依頼し,Google Formを使用して実施された.また,関係のある地域の障害者団体にアンケートへの回答を依頼した.調査期間は,2023年12月1日から2024年2月20日であった.調査項目は,「歯科検診を行っている歯科医院を探したことはありますか?」「歯科治療ができる歯科医院を探したことはありますか?」などであった.

    障害のある子どもをもつ親の86.3%が口腔内診査を受けるために,すみやかに歯科医を探すことができなかったことが明らかになった.10歳から40歳台まで70%以上の保護者が子どもを診察してくれる歯科医院を探していた.つまり40年以上前も,そして最近も,どの歯科医院が障害者の口腔内診査を行ってくれるのか,わかりにくいといえる.歯科治療のために歯科医院を探したことがある人の割合は80.6%で,口腔診査のために歯科医院を探したことがある人の86.3%に比べて若干低かった.日本歯科専門医機構認証の専門医は,専門医の広告掲載が許可され,患者が歯科医院を選択するのに役立つ.質の高い障害者歯科専門医を多く輩出することで,障害のある子どもをもつ親のニーズに応えることができるようになると考える.

  • ―毛の硬さと清掃効率の評価―
    栗原 将太, 遠藤 眞美, 地主 知世, 山岸 敦, 高柳 篤史, 野本 たかと
    2025 年46 巻2 号 p. 91-97
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    障害児者は歯ブラシによるブラッシングスキルの獲得に苦慮することが多く,高い清掃効率の歯ブラシの選択が重要な対応の一つとなりうる.しかし,歯ブラシを選択するための客観的な指標はない.

    歯ブラシの毛の硬さはJIS規格で,「かため」「ふつう」「やわらかめ」に分類され,家庭用品品質表示法でパッケージに記載され,誰もが購入時に確認できる.しかし,毛の硬さと清掃効率に関する近年の報告はない.そこで,本研究では毛の硬さの違いがブラッシングの清掃効率とストロークに与える影響について基礎研究を行った.

    試験歯ブラシは同じヘッドサイズでメーカー表示の毛の硬さが,“かため”“ふつう”“やわらかめ”“特にやわらかめ”の4種の幅広植毛歯ブラシとし,清掃効率と歯ブラシの毛先が動くために必要なストロークである臨界ストロークを平面モデルで評価した.

    毛が硬くなるほど清掃効率は高くなり,各歯ブラシの種類間で有意差を認めた(p<0.05).臨界ストロークは毛の硬い順に短く,“かため”とそれ以外のすべてと,“ふつう”と“特にやわらかめ”間に有意差を認めた(p<0.05).

    平面モデルを用いて歯ブラシを評価したところ,毛が硬くなるにつれて清掃効率が高いこと,やわらかい毛では長いブラッシングストロークが必要であることが推察された.障害児者の場合,歯ブラシを大きく動かし続けられない場合も多く,各人の特性を考慮して歯ブラシ選択をする際に毛の硬さにも配慮が必要と示唆された.

症例報告
  • ―SCERTSモデルを応用した情動調整による支援を通じて―
    大石 瑞希, 尾田 友紀, 山口 舞, 沖野 恵梨, 森下 夏鈴, 落合 郁子, 下垣内 結月, 森本 千智, 濵 陽子, 宮内 美和, 林 ...
    2025 年46 巻2 号 p. 98-106
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    SCERTSモデルは,社会コミュニケーション,情動調整,交流型支援の3領域を核とした,自閉スペクトラム症(ASD)に包括的にアプローチする教育モデルである.情動調整には,当事者自身が情動を調整する「自己調整」と,他者からの援助を受けながら調整する「相互調整」がある.今回,歯科治療に強い拒否を示したASD児において,薬物的行動調整後の情動調整により歯科診療の受容が改善した症例を経験した.本報告に際し患者と家族から書面で承諾を得た.

    症例:7歳男児.ASD.発達年齢4歳.主訴:むし歯の治療.現症:う蝕10歯,身長120cm,体重21kg.

    初診時に入室を拒否し待合室で口腔内診査を行った.全身麻酔下歯科治療を計画し,鎮静薬ミダゾラムの内服後に麻酔導入し,経過は良好であった.トレーニングに移行し,本人に処置内容の写真を提示した.「自己調整」として,本人が実施可能とした写真を「今日がんばること」と位置づけた.「相互調整」として,本人ができないと判断した写真で,術者が受け入れ可能と考え本人が了承したものを「これからがんばること」と位置づけた.歯科受容が改善し,1年後に通法下にて交換期乳歯の抜去を行いえた.

    前投薬であるミダゾラムの投与方法を経口としたことにより,注射を拒否するASD児にかかるストレスを軽減できた.SCERTSモデルの情動調整は現実的脱感作を応用した技法であり,ASD児に対し有用であると考えられた.

  • 山崎 てるみ, 小林 冴子, 井阪 在峰, 寺尾 香織, 山田 裕之, 桔梗 知明, 中嶋 智仁, 田中 克佳, 小森 幸道, 髙野 秀幸
    2025 年46 巻2 号 p. 107-114
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    本症例は,障害者歯科診療を通じて,高齢脳性麻痺患者の生活の質の維持に寄与した地域における長期的な口腔ケアと歯科診療の一例である.患者は脳性麻痺があり,多数のう蝕を主訴として52歳で当センター初診となった.以降42年間にわたり継続的な歯科診療を受け,94歳現在で21歯を維持している.診療の継続には,家族と介護者の支援,医科との連携,障害者歯科診療を担う当センターの関与など,複合的な支援体制が寄与したと考えられる.障害者歯科診療の変遷を踏まえ,われわれは常に患者にとって最適な対応を模索しつつ,長期的な口腔ケアと歯科治療に取り組んできた.高齢脳性麻痺患者における口腔内変化や長期管理に関する報告は限られている.よって,本症例は今後の障害者歯科診療の実践と支援体制の構築に重要な知見を提供するものであると考える.

  • ―歯科診療施設における適応と管理について―
    森本 佳成, 林 恵美, 小松 知子, 赤坂 徹, 宮本 晴美, 横山 滉介, 多田 千晶, 塚脇 香苗
    2025 年46 巻2 号 p. 115-123
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    比較的重度のチアノーゼ性先天性心疾患を有する知的能力障害者の歯科治療のための全身麻酔および周術期管理について報告し,歯科診療施設における適応と管理について考察した.

    症例1,2は,Fontan手術を受けた患者で,肺高血圧症がなく肺血流量(肺/体血流バランス)が安定し,心不全が軽度であることから,心筋抑制の少ないミダゾラムおよびフェンタニルを用い,酸素およびセボフルランによる緩徐導入または意識下挿管にて麻酔を行った.呼吸管理は従圧式換気様式を行ったが,胸腔内圧の上昇から静脈還流量および肺血流量の低下による経皮的動脈血酸素飽和度の低下が推察されたため,補助呼吸にて良好に管理しえた.症例3はFallot四徴症の修復術後の患者で,肺動脈弁狭窄症のために右室負荷がみられ,肺血流量の減少も推察された.肺動脈弁置換術による右室負荷および肺血流量の改善を待って全身麻酔を行った.麻酔はミダゾラムおよびレミフェンタニルを用い,酸素およびセボフルランによる緩徐導入にて麻酔を行い,良好に管理しえた.

    チアノーゼ性先天性心疾患患者の術前評価では,肺血流量を安定的に維持する観点で,術前評価および管理を行う.そのために,肺動脈圧ができるだけ正常値に近く安定していること,脱水がないことに留意する.Fontan循環では,循環体液量の過不足がないように輸液を行うこと,できるだけ補助呼吸で管理することが重要である.

  • 大岡 貴史, 山口 さやか, 田中 章寛, 横田 英子, 進藤 彩花, 草野 緑, 上田 智也, 重枝 昭広
    2025 年46 巻2 号 p. 124-131
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    CHARGE症候群は遺伝子変異が原因の多発奇形症候群であり,哺乳障害や摂食嚥下障害といった機能障害のみならず,食思不振や口腔周囲の感覚偏倚などにより経口摂取が十分に行えないことが多い.今回,乳幼児期から拒食や感覚偏倚をほぼ認めず,早期に代替栄養を脱却して経口摂取を行えた2症例を経験したので報告する.

    症例は初診時11か月の男児(症例1)および1歳の女児(症例2).離乳食の段階が進まないことを主訴に摂食外来を紹介受診した.出生直後は哺乳が困難であり,経鼻胃管にて育児用ミルクを摂取していた.しかし,哺乳びんへの拒否や食思不振は早期に軽減し,生後3か月以内には胃管が抜去された.初診時の摂食機能では,症例1は嚥下機能獲得期,症例2は捕食機能獲得期と診断された.いずれも食具や離乳食への拒否はなく,哺乳びんでの育児用ミルク摂取も可能であった.そのため,スプーンの介助法や食内容指導を行い,摂食機能発達に合わせて離乳食の段階を進めることとした.

    症例1は比較的順調に摂食機能発達が得られ,2歳台ですりつぶし機能や自食機能が獲得された.そのため,2歳6か月時に普通食を摂取可能になった.症例2では2歳台で下顎の側方運動がみられたものの,食塊形成や移送が不十分のため後期食が中心となった.いずれも代替栄養を行わずに経口摂取が継続できているものの,症例によって経口摂取の受容や摂食機能発達には差異があるため,多職種連携を含めた継続的な関わりが必要と考えられる.

  • 進藤 彩花, 林田 有貴子, 大岡 貴史
    2025 年46 巻2 号 p. 132-137
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    13トリソミー症候群児は重度合併症をもち,経口摂取が困難な場合が多い.今回,口腔感覚の受容が良好であり,摂食機能療法を通して摂食機能の向上が得られた例を経験したので報告する.

    症例は初診時1歳1か月女児,離乳が進まないことと唇顎口蓋裂の手術のためHotz床の作製を主訴に近隣歯科診療所から紹介され当科を受診した.唇顎口蓋裂(CLP)・心室中隔欠損症を伴い,粗大運動は未定頸であった.乳児用ミルクを唇顎口蓋裂用の哺乳瓶で摂取し,離乳食は初期食を摂取していた.乳歯は未萌出であり,口腔内の感覚過敏はみられず,口腔感覚の受容は良好であった.新製したHotz床の受容も良好であった.離乳食摂取時は舌突出が認められ,食塊移送は困難であった.成人嚥下獲得不全と診断し,乳児用ミルクと初期食を継続し,1食あたりの離乳食の増加を治療方針とした.1歳10か月で口唇形成,軟口蓋形成,舌小帯切除の手術を行った.Hotz床の使用は終了した.2歳時,顎介助による水分摂取訓練を指導した.3歳時,離乳食の摂取量が増加した.成人嚥下獲得は不十分であるが,動きの弱い押しつぶし動作やすりつぶし動作が認められた.

    初診時から口腔感覚の受容が良好であり,歯科介入により,経口摂取の維持,離乳食の増加などの摂食機能の向上が得られた.経口摂取が進みにくい疾患において,より早期の歯科介入は,口腔感覚の受容と摂食機能の向上を促すことが可能であると考えられた.

  • 片浦 貴俊, 佐藤 紗貴, 各務 さおり, 和田 鮎美, 伊藤 千世, 鈴木 久美子, 伊藤 邦弘, 加藤 伸一郎
    2025 年46 巻2 号 p. 138-144
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    全身性アミロイドーシスはβ構造をもつ特異な線維性タンパク質を主成分とするアミロイド物質が全身諸臓器の細胞外に異常沈着し,機能障害を惹起する難治性疾患である.今回,嚥下困難を契機に発見された全身性アミロイドーシスの症例を経験したので報告する.症例は79歳男性.数年前から嚥下困難感があり,耳鼻咽喉科での診察では異常所見なく経過観察となっていた.20XX年1月に嚥下困難の増悪から消化器内科へ入院した.嚥下障害および巨舌の精査目的で当科へ依頼があり,舌組織生検の結果からアミロイドーシスを疑い,全身検索を依頼した.全身検索の結果,骨髄組織生検や皮膚組織生検でもアミロイドタンパクの沈着が認められたため,全身性アミロイドーシスとの確定診断にいたった.病状,年齢から根治療法の適応ではなく,患者と相談のうえベスト・サポーティブ・ケアの方針となった.当科では,間接訓練および誤嚥性肺炎予防のための専門的口腔ケアを行い,わずかではあるが嚥下機能の改善が認められ,嚥下調整食0~3レベルの食材の経口摂取が可能となった.本症例のように非腫瘍性の巨舌,嚥下困難を呈した症例において,鑑別疾患としてアミロイドーシスを念頭におき診療を行う必要があり,舌を診る機会が多い歯科が早期発見できれば,より有効な治療につながる可能性がある.また,終末期の患者に対し,われわれの介入によって可能なかぎりQOLを高めることができたと考えられた.

臨床集計
  • 大岩 大祐, 小野 智史, 飯田 彰, 秋野 憲一, 今渡 隆成
    2025 年46 巻2 号 p. 145-152
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    背景:日本の入所型障害者支援施設に関する口腔健康管理状況の報告は限られている.歯科未介入の入所型障害者支援施設における口腔健康管理状況と入所期間の関連を明らかにすることを目的に横断研究を実施した.

    方法と対象:札幌市にある入所型障害者支援施設の居住者28名を対象とし,2023年7月から2024年12月にかけて,口腔内診査および入所時データを収集した.この施設はそれまで特定の歯科医院との定期的な連携を実施していなかった.対象者は入所期間に基づいて11年以上と10年以下の2つの群に分類された.主な調査項目として,残存歯数,歯周病の状態,口腔セルフケアの状況,口腔衛生管理に対する施設の介入状況,最後の歯科受診からの経過年数が含まれる.

    結果と考察:解析対象は27人で,男性が11人(41%),年齢中央値が71 [61-73]歳,入所期間の中央値が30 [29-30]年,入所時の年齢中央値が44 [39-56]歳,残存歯数の中央値が20 [14-24]本,重度の歯周炎が15人(56%),最後の歯科受診からの経過年数の中央値が28 [5-29]年であった.入所期間11年以上群は入所期間10年以下群と比較して,残存歯数が少なく(17 [9-21]本vs. 25 [24-29]本,p<0.01),年齢が高く(71 [68-75]歳vs. 56 [46-73]歳,p=0.03),最後の歯科受診からの期間が長かった(28 [18-29]年vs. 4 [3-5]年,p<0.01).本結果から,入所期間が長いほど口腔衛生状態が不良である可能性が示唆され,入所型障害者支援施設に対する社会的支援体制の強化と適切な歯科介入の導入が必要と思われた.

  • ―第1報 患者背景と動向調査―
    今野 歩, 安田 昌代, 平沼 克洋, 篠木 麗, 鈴木 將之, 向山 仁, 木村 貴美, 堀元 隆司, 池田 正一, 吉田 直人
    2025 年46 巻2 号 p. 153-159
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/11/10
    ジャーナル フリー

    横浜市歯科保健医療センター(以下,当センター)が,2018年9月から2024年3月までに在宅診療をした医療的ケア児者と重症心身障害児者の58人を対象に,患者と家族の生活背景に沿った訪問診療体制の構築を目指すため患者背景と動向の分析,調査を行った.調査項目は基礎情報,医療的ケアの有無と種類,医科受診状況,紹介医療機関または初診申し込み元機関,保健医療・介護サービス利用の種類,歯科相談内容と歯科受診歴,転帰である.対象者の初診時平均年齢は9.03±11.02歳で,原疾患・障害別では,脳性麻痺や脳症を含む中枢・末梢神経疾患が最も多かった.患者の46人に医療的ケアがあり,呼吸管理,胃ろうを含む経管栄養管理などを必要とした.また,超重症児者が13人,準超重症児者が19人であり医療依存度が高いことがうかがえた.医科受診は2,3次医療圏の病院に91.4%,1次医療圏の訪問医等の受診が44.8%であった.日中の活動では,在宅23人,通園14人,通学18人,通所3人であった.保健医療・介護サービス利用では訪問看護が52人と最も多かった.当センター患者の年齢分布と横浜市のデータ比較から,15歳以上における歯科診療のニーズの潜在化の可能性があり,その抽出には2,3次医療圏の病院の医師,歯科医師等との連携が必要と考えられた.また,定期的な歯科受診へのニーズが示唆され,患者とその家族の生活様式に合わせた円滑な診療のために,地域医療圏における1次から2,3次医療圏まで一体となった連携体制の構築が必要であると考えられた.

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