日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
口腔内の慢性疼痛治療を契機に注意欠如・多動症と診断された成人の一症例
萩原 綾乃笠原 諭髙橋 香央里川口 潤一戸 達也
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2020 年 41 巻 4 号 p. 325-331

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抄録

成人期の発達障害は診断されないまま見過ごされているケースも存在し,就業や日常生活,周囲とのコミュニケーションに支障をきたすために生きづらさを感じている患者も多い.今回,口腔内の慢性疼痛治療のために当院に来院した患者で,診察時の様子から発達障害が疑われて精神科医への紹介を行ったところ,注意欠如・多動症(ADHD)と診断された症例を経験したので報告する.患者は50歳女性.下顎右側第二大臼歯の慢性疼痛を主訴に来院し,筋筋膜性歯痛の診断下に疼痛治療を開始した.診察室内では落ち着きがなく会話を順序立てることが困難で,破局的思考が強かった.口腔内処置時には,感覚過敏や指示の伝わりにくさも認めた.数カ月を経過しても疼痛治療への理解や協力が得られず,正確な疼痛評価も困難であったため,発達障害を疑い精神科医へ紹介した.患者はADHDと診断され,ADHD治療薬による薬物療法が開始された.現在,落ち着きのなさや会話を順序立てることの困難は徐々に改善傾向にあり,今後の疼痛治療への積極的な参加と疼痛改善が期待される.本症例のように,隠れた発達障害が治療の障害になっていることもある.適切な治療を行うためには,専門医への受診を促し,連携を図ることが重要であると示唆された.

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© 2020 一般社団法人 日本障害者歯科学会
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