日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
外歯瘻を形成した自閉症スペクトラム障害患者の一例
中小路 美緒髙野 知子鈴木 杏奈新倉 啓太勝畑 妙江子杉田 武士杉山 郁子小松 知子池田 正一
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2021 年 42 巻 3 号 p. 264-270

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抄録

自閉症スペクトラム障害(以下ASD)は対人関係・コミュニケーションの障害と限定的・反復的な行動様式で定義される一群の神経発達障害であり,環境のわずかな変化にも苦痛を感じやすい特性がある.歯科医療の場においては環境の変化に順応できないため治療を受け入れられず,症状の悪化を招く事例もある.今回,頰部外歯瘻を形成したASD,重度の知的能力障害の患者に対し,静脈内鎮静法(以下IVS),全身麻酔法(以下GA)を用いて原因歯抜去と外歯瘻切除術を行った症例について報告する.症例は15歳の男性で2017年7月に左下頰が腫れて膿が出ていることを主訴に来院した.他の歯科診療所にてIVS下に計4回根管治療を受け,抗菌薬を内服するも改善がみられず,当院を紹介され受診した.初診時は歯科診療台への着座に拒否が強く困難であり,また口腔内の精査,パノラマエックス線撮影も不可能であった.左頰部外歯瘻を形成していることから顎炎を引き起こす可能性も考えられたため,早急に口腔内精査,診断,治療を行う必要があると考えた.まずはIVSを用いて口腔内診査,デンタルエックス線およびCT撮影を行い,抜歯適応と診断したため同日原因歯を抜去した.顎炎には波及せず,外歯瘻は治癒したものの瘻管が瘢痕収縮し,頰部に陥没が認められた.頰のくぼみを治したいという両親の希望もあり,GA下で瘻孔切除術を行った.瘻孔の切除により頰部の陥没は改善され,現在経過は良好である.

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