2022 年 43 巻 1 号 p. 40-47
重症心身障害児(者)では重度の嚥下障害を合併することが多く,誤嚥性肺炎の併発など栄養面の管理に苦慮する場面にしばしば遭遇する.それらの場合においては経口摂取が難しく,経管栄養となるケースを経験することも少なくない.摂食嚥下障害の重度化の原因として,筋力低下などが問題となることがあり,経口摂取を継続するためには摂食時の食形態の配慮や栄養面についても配慮する必要があり,少量でも不足する栄養素とカロリーを補充するものとして濃厚流動食が利用されることが多い.しかし,カロリーアップのため多量の糖質を含むものも多く,う蝕など口腔内環境の変化が懸念されるが,濃厚流動食における口腔内,特に歯への影響について報告されているものは少ない.今回,当院重心棟に入院しており,全身機能低下により濃厚流動食が経口使用された4例を対象に口腔内環境の変化について検討を行ったので報告する.
今回の症例においては4例中3例に濃厚流動食導入後に導入前と比較しう蝕の発生を認め,濃厚流動食摂取による重症児(者)の歯への影響が考えられた.う蝕が多発する要因として,重症児特有の歯列不正,拒否や観察困難による口腔清掃困難が考えられる.さらに重度の摂食嚥下障害により食物が口腔内に長時間停滞することで口腔内細菌数の上昇やトロミ調整食品の使用などの条件が加わりう蝕発生のリスクが高まり,口腔内環境の悪化を認める可能性があると思われた.