2022 年 43 巻 3 号 p. 193-201
初診時に自閉スペクトラム症者が不適応行動を起こす要因について検討した.対象者は2019年4月から2021年12月までに来院した初診の自閉スペクトラム症者32名であった.暦年齢,性別,発達年齢,障害特性,過去の歯科,医科受診経験について調査し,患者の初診時の適応について「①診療室へ入る」「②診療台に座る」「③診療台で仰臥位になる」「④介助磨きをする」「⑤口腔内診査」の順で行動を観察し,評価した.分析はFisherの直接確率計算と決定木分析により検討した.
分析の結果,初診時における歯科受診行動と発達年齢はいずれの場面でも関連が認められ,「診療室へ入る」は言語理解1歳10.5カ月以上,「診療台で仰臥位になる」以降は3歳以上の発達年齢が必要であった.暦年齢は,「診療室へ入る」と「診療台に座る」が7歳,「診療台で仰臥位になる」以降は11歳が最適なカテゴリー区分であった.7歳未満の自閉スペクトラム症児は,初診時に口腔内診査はもちろん,診療室に入れない,診療台に座ることが困難な傾向がみられた.「診療台に座る」「仰臥位になる」「介助磨き」「口腔内診査」などの適応行動を判別するのに有効な項目は「医科抑制経験の有無」が抽出された.医科での不快な経験が初診時の受診行動に影響していた.自閉スペクトラム症者には,医療機関において不快な思いをさせないよう心掛ける必要があると考えられた.