日本障害者歯科学会雑誌
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43 巻, 3 号
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原著
  • 鈴木 香保利, 小笠原 正, 富田 美穂子, 増田 裕次
    2022 年 43 巻 3 号 p. 193-201
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    初診時に自閉スペクトラム症者が不適応行動を起こす要因について検討した.対象者は2019年4月から2021年12月までに来院した初診の自閉スペクトラム症者32名であった.暦年齢,性別,発達年齢,障害特性,過去の歯科,医科受診経験について調査し,患者の初診時の適応について「①診療室へ入る」「②診療台に座る」「③診療台で仰臥位になる」「④介助磨きをする」「⑤口腔内診査」の順で行動を観察し,評価した.分析はFisherの直接確率計算と決定木分析により検討した.

    分析の結果,初診時における歯科受診行動と発達年齢はいずれの場面でも関連が認められ,「診療室へ入る」は言語理解1歳10.5カ月以上,「診療台で仰臥位になる」以降は3歳以上の発達年齢が必要であった.暦年齢は,「診療室へ入る」と「診療台に座る」が7歳,「診療台で仰臥位になる」以降は11歳が最適なカテゴリー区分であった.7歳未満の自閉スペクトラム症児は,初診時に口腔内診査はもちろん,診療室に入れない,診療台に座ることが困難な傾向がみられた.「診療台に座る」「仰臥位になる」「介助磨き」「口腔内診査」などの適応行動を判別するのに有効な項目は「医科抑制経験の有無」が抽出された.医科での不快な経験が初診時の受診行動に影響していた.自閉スペクトラム症者には,医療機関において不快な思いをさせないよう心掛ける必要があると考えられた.

症例報告
  • 髙野 知子, 鈴木 杏奈, 新倉 啓太, 高瀬 幸子, 植松 里奈, 小松 知子, 池田 正一
    2022 年 43 巻 3 号 p. 202-209
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    先天性無痛無汗症(CIPA)は温度・痛覚の欠如と発汗障害および知的能力障害を主徴とする遺伝子疾患で,歯科的な問題点として舌や口唇の咬傷,顎骨骨髄炎などが挙げられる.今回,顎骨骨髄炎を発症した姉弟症例を経験したので報告する.

    姉(16歳)の口腔清掃状態は不良,5⏌の抜歯4日後に発熱と右側頰部腫脹を認め,抜歯1週間後,6⏌頰側に歯肉膿瘍を形成し排膿が認められた.抜歯28日後には6⏌の動揺が著明となり,CT画像にて6⏌相当部歯槽骨の壊死骨の分離がみられたため抜歯と壊死骨の除去を行った.弟(5歳)の口腔清掃状態は不良で全顎に著しい咬耗を認めた.発熱と下顎右側頰部腫脹を認め来院,E⏋は咬耗により露髄し,歯肉膿瘍を形成していた.髄腔開放,抗菌薬投与を行ったが,20日後には が脱落,壊死骨を認め,その後壊死骨と5⏋歯胚も脱落した.

    姉の顎骨骨髄炎は5⏌の抜歯窩からの感染,弟は咬耗により露髄したことによる感染が原因と考えられ,両者ともに壊死骨の分離まで急速に進行した.CIPAは組織の防御や修復に関連する炎症反応が通常とは異なる経過をとるとされており,この骨髄炎の急速な進行と関係しているものと考えられた.

    CIPAは痛覚の欠如から自覚症状がなく,感染の発覚が遅れる恐れがあることから,外科処置を行う際の術前・後の抗菌薬投与の検討や,定期的な歯科受診を促し,歯科疾患の予防,早期発見と徹底した口腔衛生管理が重要であると考えた.

  • 中島 淳, 花岡 美穂, 阿部 彩由美
    2022 年 43 巻 3 号 p. 210-214
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    毛細血管拡張性小脳失調症は毛細血管拡張,細胞性免疫不全(易感染性)と高頻度の悪性腫瘍を3主徴とする常染色体劣性遺伝性疾患であり,歯科治療ではDNA損傷に対する腫瘍化を防ぐ遺伝子の欠損のため,エックス線撮影の制限(腫瘍発生リスクの軽減)と呼吸器感染症に注意が必要となる.今回われわれは,本疾患を有する患者に対し,複数回に及ぶ静脈内鎮静法を用いた歯科治療(抜歯を含む)を経験したので報告する.

    本症例は18歳男性で検診希望にて来院した.口腔内診査にてう蝕を認め,静脈内鎮静法を用いて処置を行い,定期検診となった.しかし,患者の受診忘れと体調不良により,1年8カ月の中断後に再来院した.その際,臼歯にう蝕を認め再治療となった.身体所見では,本症で特徴とされる眼球結膜の血管拡張を認めた.治療開始前に主治医に対診し,必要最小限のエックス線撮影は許容されること,易感染性に対して免疫グロブリン療法を行っているため,外科処置後は一般的な抗菌薬の投与で対応することを確認した.歯科処置(抜歯処置含む)は,特に問題なく経過した.本疾患はエックス線撮影の制限と易感染性を有するため,歯科疾患の早期に発見が特に重要となる.そのため,治療後も長期の中断は極力防ぎ,低侵襲の介入で済むような定期検診を行えるように配慮が必要である.

  • 弘田 真実, 藤代 千晶, 笠川 あや, 安藤 早礎, 岡本 由莉, 齋藤 知子, 村上 旬平, 秋山 茂久
    2022 年 43 巻 3 号 p. 215-219
    発行日: 2022/10/31
    公開日: 2023/02/28
    ジャーナル フリー

    Joubert症候群は,小脳や脳幹の形成異常,知的能力障害,筋緊張低下,運動障害,新生児期の呼吸器障害などを呈するきわめてまれな疾患である.下唇への自傷行為がみられたJoubert症候群の一例を経験したので報告する.

    症例:3歳2カ月男児.主訴:咬傷予防のマウスガードについて相談したい.障害名:Joubert症候群,知的能力障害(療育手帳A,最重度).現病歴:3歳0カ月時に,下唇を激しく咬み貫通創を生じたため,病院口腔外科で全身麻酔下に下唇縫合し,ソフトタイプマウスガードを上下顎に装着した.しかし,1カ月ほどで適合不良となり,当院紹介となった.

    治療経過:経過観察としていたが,3歳7カ月時,下唇への自傷行為が高頻度にみられたため下顎のマウスガードを装着した.さらに3歳8カ月時,家族の希望で上顎のマウスガードを装着した.3歳10カ月時,下唇の咬傷が継続したため,下唇の巻き込み防止のため,下顎前歯部にコルベン状の豊隆を付与した下唇圧排除型のマウスガードを装着した.それ以降は新たな咬傷はみられない.

    考察:本症例にみられた自傷行為の原因は,本人との意思疎通が困難であるため詳細は不明である.そのため今後,自傷再発の可能性が否定できない.したがって,患者や家族に対する継続的な観察と支援が必要と考えられる.

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