日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
心原性脳塞栓症発症後の抗血栓療法患者が抜歯後に脳塞栓症を2度再発した一例
山口 喜一郎藤井 航二宮 静香長友 祐子石倉 行男
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2023 年 44 巻 3 号 p. 255-261

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抄録

抗血栓療法患者の抜歯において,出血のリスク評価や対応については報告されている.しかし,再発のリスク評価については報告がない.今回,抗血栓療法患者が抜歯後に心原性脳塞栓症を2度再発した症例を経験したので報告する.

患者は心原性脳塞栓症で,リハビリテーションのため当院へ入院した60歳男性である.発症から第46病日にエドキサバン内服下に重度歯周炎の下顎右側第二小臼歯に対し,抜歯術を施行した.抜歯から6日後,失語症の症状があり,MRIにより再発を認め,急性期病院へ搬送となった.その後再入院し,初回の発症から第112病日にアピキサバン内服下に根尖性歯周炎の上顎右側中切歯に対し,抜歯術を施行した.抜歯から3日後,構音障害の悪化を伴う再発を認め,急性期病院へ搬送となった.

本症例は抜歯時の出血リスクおよび再発リスクを考慮し,抗凝固薬内服下に抜歯術を2度施行したが,抜歯からそれぞれ6日後および3日後に心原性脳塞栓症が再発した.炎症は血中での凝固亢進を誘発し,血栓形成を生じやすくすることから,抜歯前後の消炎処置が重要と考える.また,本症例のように抜歯から数日後に再発しうる可能性を考慮し,抗血栓療法患者への観血的処置では炎症が生じる数日間は体調確認を行う配慮が必要である.また,観血的処置を行う際には十分な説明を行い,同意を得るとともに,同居者の有無など生活背景についても情報収集を確実に行うことが必要である.

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© 2023 一般社団法人 日本障害者歯科学会
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