日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
多数歯抜去後に脳膿瘍を発症した未手術の完全心内膜床欠損症を伴うDown症候群患者に対し,事前に整備した多職種連携で迅速対応した1症例
尾田 友紀古谷 千昌宮崎 裕則吉田 結梨子小田 綾大植 香菜高橋 珠世好中 大雅向井 明里緒方 克也岡田 芳幸
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2024 年 45 巻 2 号 p. 94-103

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抄録

緒言:Down症候群では約半数に先天性心疾患がみられる.観血処置時は感染性心内膜炎(IE)予防のため,ハイリスク群には抗菌薬の投与が推奨される.今回われわれは,未手術の完全心内膜床欠損症を有するDown症候群患者の抜歯後,脳膿瘍を発症した症例を経験した.

症例:患者:28歳女性.主訴:抜歯してほしい.既往歴:6年前にIE.現病歴:職員が動揺歯に気づき,当科受診.現症:身長141cm,体重47kg.SpO2 83%(O2 2l/min).根尖性歯周炎7本.

経過:初診時,口腔診査に対し拒否による体動がみられ,啼泣により低酸素症のリスクが高まると予想された.一方,複数回の抜歯はIEリスクをさらに高めるため,全身麻酔下の単回治療も提案された.しかし,循環器スクリーニングの結果,全身麻酔に伴う循環動態の変化により,不可逆的な心機能低下に陥る危険性があった.そこで,多施設でIEの対応体制を整備し,複数回の外来処置で対応した.3回目の抜歯後に施設が発熱を発見し,即座に精査を行った結果,IEと脳膿瘍を認めた.高用量長期抗菌薬治療が施され,13週後に退院した.

考察:今回われわれは,未治療の先天性心疾患を有するDown症候群患者に対し,IE発症を予見し連携したことで,脳膿瘍に迅速に対応できた.高度リスク群患者の処置では,発症を念頭にすみやかに対応しうる多職種連携を整備することが重要であると考えられた.

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