2023 年 64 巻 5 号 p. 263-278
潮位変動の影響で沿岸域帯水層の地下水位時系列データに含まれることがある潮汐振動成分は,その内陸に向かう伝播に伴う減衰または遅れの分析による帯水層の水理定数推定に利用される.そのような地下水の時系列データ中の潮汐振動成分の抽出方法,すなわちその正弦振動の振幅と初期位相の算出方法のひとつにフーリエ解析がある.フーリエ解析により有限長時系列データから特定周期の正弦振動を抽出しようとすると,解析の原理上避けられない2種類の要因による誤差が生じる.それらはデータに含まれる正弦振動の周期と解析対象とするデータ長に関係する.このため観測データから少ない誤差で潮汐振動を抽出するには,適切な解析データ長を選ぶ必要がある.本検討では,沿岸域帯水層で観測される典型的な潮汐振動の成分構成を持つ人工時系列データから約半日または1日の周期の主要潮汐振動を抽出するときの誤差が,解析データ長が1日から100日の範囲で変わるときにどのように変わるかを具体的に調べた.その結果から,主要潮汐振動を抽出することを目的とした地下水観測データのフーリエ解析において,誤差が相対的に小さく見込まれ推奨される解析データ長を選定した.