2011年4月11日の福島県浜通りの地震(Mw6.7)時,福島県南東部に北北西から南南東に伸びる約14kmの地表変状が生じ塩ノ平断層と命名された.その南方延長上の車断層では地表変状は認められなかった.両断層の活動性評価のため,前者の活動域上の塩ノ平地点と後者の非活動域上の水上北地点で,SIMFIP法による断層スリップ試験を実施した.両地点の断層破砕部への注水に対する水圧モニタリング孔での水圧応答から,断層部を挟む領域の水理特性をGRFモデル(Barker,1988)により評価し,透水係数,比貯留量,及び流れ次元を明らかにした.これらの水理パラメーターは国内外の文献値と整合的で,透水係数及び比貯留量は塩ノ平が水上北よりも大きく,流れ次元は塩ノ平が概ね三次元流であり,水上北が二次元フラクショナル流となる.また計測変位から算定される一軸膨張係数と水理解析での比貯留量の対比から,体積膨張は,前者が三軸,後者が一軸方向で生じると把握された.両地点の相違は,当該断層破砕部に賦存する「水みち」の空間的な発達状況の相違と密接に対応し,両地点の断層活動度に差異を生む要因と水理パラメーター等との関連性が示唆された.
令和4年8月の前線大雨によって津軽平野の岩木川支流の中里川において越流を伴わない堤防の決壊が生じた.氾濫原に形成された破堤堆積物について,UAVによる空中写真撮影,ピットの掘削・壁面観察,堆積物の粒度分析などを行った.その結果,破堤堆積物は下位から砂礫層(ユニット1),青灰色の細粒砂層(ユニット2),淡褐色の泥混じりの中~粗粒砂層(ユニット3),淡黄色の中粒砂層(ユニット4)の4つの堆積ユニットに区分できる.各堆積ユニットは,堤体の浸透破堤が始まった時期,堤体の開口部から河床の堆砂が流出した時期,破堤の拡大に伴い氾濫流が堤内地に大量に流入した後に徐々に減衰していく時期,2回目の増水によって氾濫流がさらに流れ込んだ時期に,それぞれ堆積したと推定される.
潮位変動の影響で沿岸域帯水層の地下水位時系列データに含まれることがある潮汐振動成分は,その内陸に向かう伝播に伴う減衰または遅れの分析による帯水層の水理定数推定に利用される.そのような地下水の時系列データ中の潮汐振動成分の抽出方法,すなわちその正弦振動の振幅と初期位相の算出方法のひとつにフーリエ解析がある.フーリエ解析により有限長時系列データから特定周期の正弦振動を抽出しようとすると,解析の原理上避けられない2種類の要因による誤差が生じる.それらはデータに含まれる正弦振動の周期と解析対象とするデータ長に関係する.このため観測データから少ない誤差で潮汐振動を抽出するには,適切な解析データ長を選ぶ必要がある.本検討では,沿岸域帯水層で観測される典型的な潮汐振動の成分構成を持つ人工時系列データから約半日または1日の周期の主要潮汐振動を抽出するときの誤差が,解析データ長が1日から100日の範囲で変わるときにどのように変わるかを具体的に調べた.その結果から,主要潮汐振動を抽出することを目的とした地下水観測データのフーリエ解析において,誤差が相対的に小さく見込まれ推奨される解析データ長を選定した.