2024 年 65 巻 1 号 p. 2-12
山地斜面における土層厚の把握を目的として,表面波探査が利用可能な地形と土層構造を明らかにするため,広島県の流紋岩地域の表層崩壊地の周辺斜面を対象に,地形判読,土層区分,簡易貫入試験,および表面波探査を行った.土層構造の調査の結果,土層は尾根から上部谷壁斜面上部にかけて厚くなるが,その下方のソイルクリープ領域と下部谷壁斜面で薄くなった.このソイルクリープ領域では,頂部斜面に比べて土層と風化岩の間の境界面が屈曲し,風化岩中に開口割れ目を生じていた.表面波探査の結果,尾根から上部谷壁斜面にかけては表面波が分散し,S波速度構造が得られた.このS波速度は25未満の貫入抵抗値と正の相関を示した.また,土層の貫入抵抗値が10未満であったため,土層のS波速度は175m/s未満と推定された.しかしながら,ソイルクリープ領域と下部谷壁斜面では,表面波の分散が不明瞭となった.以上の結果から,流紋岩地域の尾根から上部谷壁斜面にかけての土層厚は,表面波探査を用いて推定可能である.一方,ソイルクリープ領域と下部谷壁斜面では,土層構造が複雑であるため,表面波探査の適用が難しいと考えられる.