応用地質
Online ISSN : 1884-0973
Print ISSN : 0286-7737
ISSN-L : 0286-7737
間隙水の物性変化による移流・拡散現象の遅延効果
廣野 哲朗中嶋 悟林 為人高橋 学
著者情報
ジャーナル フリー

2004 年 45 巻 3 号 p. 118-124

詳細
抄録

ナノスケールの空隙 (以下, ナノポアと略す) をもつ岩石および堆積物の溶存イオンの実効拡散係数の評価のため, 多種類の岩石・堆積物を用いてヨウ素イオンの透過拡散試験を行い, ナノポアにおけるヨウ素イオンの拡散係数の測定を行った. その結果, ナノポア中の間隙水を介するイオンの実効拡散係数は自由水中のそれと比べて約1桁低い値を示し, かつ間隙径が小さくなるほど, その値が低下する傾向が認められた. ナノスケールでの薄膜水の赤外分光法による過去の研究報告では, 水の物性は温度・圧力のみならず鉱物表面との相互作用およびその作用が及ぶ範囲にも依存し, その分子構造の緻密化は100nm以下で顕著に現れることが示唆されている. この分子構造の変化が本研究でのイオンの実効拡散係数の低下の原因と考えられる. また, 岩石が100nm以下のナノポアを多く含む場合, 等価管路モデルで透水係数の推定を行った最近の研究報告では, 間隙径による水の粘性係数の変化を考慮することにより実験値により近い値が得られている. このように, ナノポアにおける水分子の構造化に起因する溶存イオンの実効拡散係数および透水係数の低下は, 地下深部での物質移動を定量的に評価するうえで無視できない要素と言える.

著者関連情報
© 日本応用地質学会
次の記事
feedback
Top