スポーツ教育学研究
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教師の相互作用及びその表現のしかたが子どもの形成的授業評価に及ぼす影響
高橋 健夫歌川 好夫吉野 聡日野 克博深見 英一郎清水 茂幸
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1996 年 16 巻 1 号 p. 13-23

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抄録

先行研究によって, 「教師の相互作用行動は授業の雰囲気を決定づけ, 学習成果に肯定的に作用する」ことが明らかにされてきた。しかしながら, 体育授業実践に生かす相互作用行動のあり方を具体的に示唆するには, さらに相互作用の質的側面に立ち入って検討する必要がある。そこで, 本研究では「双向性」「伝達性」「共感性」「表現技術」「言語内容」といった相互作用行動の「表現のしかた」に着目し, それらと子どもの形成的授業評価との関係について検討した。対象は, 小学校中・高学年における37体育授業であった。分析の結果, 以下の諸点が明らかになった。
(1) 高橋らが作成した教師行動観察法の相互作用行動の部分を適用して観察記録した結果, 1授業あたりの相互作用行動の平均頻度は168.4回で, 大変頻繁に営まれていた。なかでも多くみられたのはフィードバック行動で, 肯定的フィードバックが47.6回, 矯正的フィードバックが43.8回と全体の9割以上を占め, 否定的フィードバック行動の平均は0.5回ときわめて少なかった。このことから今回対象となった授業の多くは肯定的雰囲気のなかで進められていたことがわかる。
(2) 「表現のしかた」の観察記録の結果, 双方向的な相互作用行動は平均29.8回で, そのうち10秒以上の比較的長いものは10.8回であった。また, 伝達性のあるフィードバックも平均63.0回あり, 全体的に無駄のないフィードバックが行われていた。しかし, 「共感性」「表現技術」「言語内容」の観点から評価できるフィードバック行動は, それぞれ4.2回, 2.5回, 0.8回と少なかった。このことから, 特に巧みな「表現技術」や「言語内容」は自然に生じるものではなく, その適用には専門的知識や技術が要求されると考えられる。
(3) 相互作用行動と形成的授業評価との相関分析の結果, フィードバック行動については, 先行研究にみられたほど明確な関係はみられなかった。その原因として, 今回の観察において, マネージメント場面と体育的場面をひとまとめにして記録したこと, また, 対象とした授業の多くが研究指定校で行われたものであったため, 全般的に肯定的・矯正的フィードバックが多用されていたことなどが考えられる。ただし, 「発問」「受理 (傾聴)」「励まし」においては, 先行研究と同様, 形成的授業評価との間に有意な相関がみられた。
(4) 「表現のしかた」と形成的授業評価との相関分析の結果, 「双向性」「伝達性」「共感性」の3項目は形成的授業評価に強く関係することが明らかになった。「双向性」と「伝達性」は, 形成的授業評価の「学び方」や「協力」次元との間に有意な相関が認められ, さらに「共感性」については, 大部分の次元・項目との間に有意な相関が認められた。
以上のように, 相互作用行動の各カテゴリーの頻度以上に「表現のしかた」が子どもの形成的授業評価に強く影響することが明らかになった。また, 「双向性」「伝達性」「共感性」は, 「表現技術」「言語内容」以上に強く影響することも明らかであった。したがって, 体育の授業場面で, 子どもたちに対して積極的な相互作用行動を営むことにくわえて, これらの「表現のしかた」を意図的に適用することは, 少なくとも子どもの授業評価を高めるうえで有効に作用すると考えられる。

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