スポーツ教育学研究
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体育授業におけるプログラム・プロセス・プロダクト研究の試み
教師の指導性の異なる2つのサッカーの授業分析を通して
細越 淳二高橋 健夫吉野 聡
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2000 年 20 巻 1 号 p. 41-58

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抄録

本研究では, 教師の指導性の異なる2つのサッカー授業をとりあげ, それらをプログラム・プロセス・プロダクトの視点から総合的に観察分析し, 指導計画段階, 授業過程のそれぞれにおける教師の指導性の発揮のしかたの違いが, 子どもの授業評価にどのように結びつくのかについて, 事例的に検討した.
A単元は, 研究者と実践者が合議のうえ計画・立案した. 具体的には, 段階的に学習を深めていくことのできる「ステップ型」の学習過程を適用した. またタスクゲームには, ゲームパフォーマンスを高めることをねらった, 2つの異なったゲームが発展的に位置づけられた. 授業過程での教師の指導性の発揮のしかたとして, 教師は毎時間技術的・戦術的な課題を子どもに提示し, 常に明確な課題意識をもたせる働きかけをするように計画した. また積極的なフィードバックを営み, 子どもたちの学習を活性化させるよう企図した.
B単元には一切の介入を行わず, 担当教師が指導計画を作成した. そこでは, 学校現場で広く行われている「ステージ型」の学習過程が適用され, 子どもの自発的・自主的学習が目指された. また, 授業過程における教師のフィードバックについては, 普段通りに行うこととした. 授業はゲーム中心で展開され, 単元を通して同一のタスクゲームが適用された.
このように, 指導計画段階では, B単元よりもA単元の方が, 子どもの学習を明確に導くような, 教師の指導性の強い指導計画が設定された.
授業過程の行動的特徴は, 学習者行動については, 「課題従事・非従事行動」「集団的・情意的行動」の観点から, 教師の指導行動については「授業場面の記録」「課題提示のしかた」「教師のフィードバック」の観点から観察記録した. くわえて毎時間授業終了直後に, 子どもによる形成的授業評価を行い, ここから学習成果を判断した.
授業過程の分析結果をみると, 学習者の行動については, どちらの単元の子どもたちも積極的かつ肯定的な雰囲気のもとで活動しており, 大きな差異はみられなかった. 授業場面の記録については, どちらの単元も, 授業の規律が確立され, 豊富な運動学習時間が確保されていた. しかしA単元の方が学習指導にあてた時間量が多く, 子どもの学習を方向づけようとする明確な教師の指導性をうかがうことができた. 授業はじめとおわりの学習指導場面では, A教師は子どもたちに具体的な課題を提示して課題意識をもたせようとしていた. これに対してB教師は, 課題提示をほとんど行っていなかった. 教師のフィードバックについてみると, どちらの教師も積極的に子どもたちに働きかけていたが, A教師の方は単元や各授業のねらいの達成に向けた, 焦点化されたフィードバックを一貫して与えていた. 一方B教師は, 子どもの状況に合わせた状況対応的なフィードバックを与えることが多かった.
子どもによる形成的授業評価をみると, どちらの単元も, 子どもに高く評価されていたけれども, A単元は, 単元の進行に伴ってどの次元も評価が向上していたのに対し, B単元は「意欲・関心」次元の評価が単元を通して高かったにもかかわらず, その他の次元の評価が横這いのままであった.
このような授業評価の差異をもたらした要因として考えられるのが, まず教材の配列の違いであった. B単元では, 単元を通して同一のタスクゲームを位置づけたが, A単元では単元の前半と後半でタスクゲームを発展させた. また毎時間授業のはじめにドリルゲームを位置づけ, 個人的技能の向上も図った. これらのことが, 学習活動に課題性をもたせるとともに, 子どもの学習意欲を喚起し, 授業評価に肯定的な影響を与えたと思われる.
また, 教師の具体的な課題提示やフィードバックの頻度・言語内容も, 授業評価の差異を生み出した要因として考えられる. A教師は学習指導場面においても, 課題の説明や提示を積極的に行っていた. また目標達成に向けた, 焦点化されたフィードバックを数多く与えていた. このことは, 子どもの学習目標や学習課題を具体的で明確なものにし, そのことが目的的な学習活動につながり, より大きな達成感を生み出したものと考えられる.
このように, 本研究の結果から, 教師がより大きな学習成果を生み出すことを意図し, 授業の計画・過程の各段階を通して一貫性のある指導性を発揮して, 子どもたちの学習を方向づけた方が, 授業評価が高まるという示唆を得ることができた. 各種目や各発達段階に相応しい教師の指導性について, さらに考察を深めていく必要があろう.
また, プログラム・プロセス・プロダクト相互の関係について考察することから, 授業過程での行動的事実と学習成果が, 指導計画に導かれて生起していたことが推察できた. このことから, 本研究において適用したプログラム・プロセス・プロダクト研究システムは, 教師の立案する指導計画がどのように授業過程に反映

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