抄録
ワルチン腫瘍の悪性化はまれである。今回われわれは,ワルチン腫瘍の上皮成分が悪性転化し唾液腺導管癌が発生したと推察するまれな1例を経験したので報告する。症例は数年前から右耳下部の腫瘤を自覚していた66歳男性。数か月前から右頸部リンパ節腫脹も加わり,急激な増大傾向を示した。耳下部の腫瘤より施行した穿刺吸引細胞診の結果はClass V(癌)であったため,右耳下腺全摘出,右頸部郭清術を施行した。耳下腺腫瘍は10mm大の境界明瞭な結節で,病理診断は,同一病変内にワルチン腫瘍と唾液腺導管癌を認めた。また,郭清したリンパ節全てに唾液腺導管癌の転移を認めた。術後放射線化学療法を行い,術後12か月でNM再発,20か月でM死という経過をとった。