抄録
液胞膜のプロトンポンプである, 液胞型プロトンATPaseおよびプロトンピロフォスファターゼ (V-ATPase and V-PPase) は液胞への糖蓄積に重要であり, その発現は植物ホルモンの変動と関わっていると考えられる. 我々はセイヨウナシ果実を用いて植物ホルモンが液胞膜プロトンポンプの発現に及ぼす影響を調べた. アブシジン酸 (ABA), ジベレリン酸 (GA), インドール酢酸 (IAA) または6-ベンジルアデニン (BA) によってV-ATPaseサブユニットタンパク質 (Aサブユニット (65 kDa), Bサブユニット (55 kDa) およびcサブユニット (16 kDa)) は著しく増加した. 10 μM ABAによりV-ATPase活性は28%上昇し, Aサブユニット mRNA量も増加した. GAではV-ATPase活性は48%上昇したが, mRNAの増加は認められなかった. IAAおよびBAではV-ATPase活性の上昇は認められなかった. V-PPaseタンパク質はGA, IAAまたはBAにより増加した. 一方, 100 μM GAでのみmRNAの蓄積上昇を伴い20%のV-PPase活性の上昇が認められ, IAAとBAはV-PPase活性に影響を与えなかった. 以上の結果は, 液胞膜のプロトンポンプの発現調節が, 遺伝子発現, タンパク質量, 加水分解活性のレベルで複雑に制御され, タンパク質の上昇が必ずしも加水分解活性の上昇につながらないことを示している.