抄録
ナス(Solanum melongena L.)の新規の雄性不稔系統を育成することを目的に,F1 台木品種‘アシスト’[(Solanum aethiopicum L. Aculeatum Group) × ナス‘DMP’]を細胞質親およびナス‘Uttara’を核親とする連続戻し交雑による細胞質置換を進め,戻し交雑第四代(BC4)まで作出した.花粉形成の有無を調査した結果,F1‘アシスト’は供試個体すべてが花粉を形成したのに対し,BC1 では花粉を全く形成しない雄性不稔個体と雄性可稔個体に分離した.雄性可稔個体から得られた BC2,BC3 および BC4 では雄性不稔個体と雄性可稔個体に分離し,その分離比は 3 : 1 に適合した.雄性不稔個体から得られた BC3 および BC4 では分離がみられず,すべて雄性不稔個体であった.雄性可稔の BC2 の自殖実生では雄性不稔個体と雄性可稔個体に分離し,その分離比は 15 : 1 に適合した.これらのことから,S. aethiopicum Aculeatum Group の細胞質がナスに花粉を形成しないタイプの雄性不稔性を誘起することが推定された.さらに,本雄性不稔性に対して優性の稔性回復遺伝子(Rf)が 2 つ存在することが推定された.種子稔性を調査した結果,BC4 において結果率,1 果当たりの種子数および種子発芽率のいずれもが高い値を示したことから,S. aethiopicum Aculeatum Group の細胞質がナスの種子稔性に悪影響を及ぼさないことが示唆された.ナスの細胞質を S. aethiopicum Aculeatum Group のもので置換することによって新規の雄性不稔系統を育成できた.