抄録
染色体に関する情報は,育種やバイオテクノロジー研究の進展に不可欠である.その観点から,本論文においては落葉果樹における染色体観察研究の進展についてとりまとめた.概要は以下の通りである.(1)核果類,ナシ,リンゴおよびカキでは,小型染色体における良好な染色体標本作製技術である酵素解離法が確立された.(2)核果類およびナシでは,蛍光色素を用いた分染法によって形態的に似通っている染色体の識別が可能になった.さらに,両種においては,染色体構成(蛍光バンドパターン)の種,品種,個体間差異はほとんど認められなかった.(3)核果類,ナシ,リンゴおよびカキでは,蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法(FISH)によって 5S および 18S-5.8S-25S リボゾーム DNA の染色体上での位置が決定された.ナシでは FISH によってレトロトランスポゾン遺伝子の位置も解明された.これらの結果は染色体の基本情報として極めて重要である.さらにリンゴでは,自家不和合性に関する S 遺伝子の染色体上での位置も解明された.カキでは,FISH だけでなくゲノミック in situ ハイブリダイゼーション法(GISH)によっても類縁関係および体細胞雑種の染色体構成に関する新知見が得られている.